第九話 チビッコ海賊団
グレイス・オマリーの海賊船「バルドル号」が港町リーベルを離れ、波を切って海上へと出航した。
しかし、その船内は——
まるで大所帯の家そのものだった。
「うぎゃーん!兄ちゃん、エミリーが俺のパン食ったー!」
「食ってねぇし!トビーが勝手に落としたやつだもん!」
「こらぁああ!けんかすんじゃないよッ!!!」
グレイスの怒号が船中に響く。
「はいはーい、洗濯物、干しとけって言っただろ!湿気でカビるぞぉ!」
デッキでは、子供たちが裸足で駆け回り、洗濯物のロープを張る者、甲板を雑巾で磨く者、シチューをかき混ぜる者までいる。まさに“大家族の動く家”だ。
そんな中、一人の男が静かに双眼鏡をのぞいていた。
長男・エリック。
年齢は俺たちと大差ないが、背筋はピンと伸び、鍛え上げられた肉体と理知的な瞳が際立つ。荒くれ者が集まるこの船で、まるで士官学校を出たような落ち着きを見せていた。
「……異常な飛行影確認。進路3時方向。距離800。上空からだ」
エリックが冷静に声を上げた。
「爆弾カモメだァーーーっ!!」
船員の子供たちが一斉に騒ぎ出す。
空には、羽根の後ろに爆薬を抱えたモンスター「爆弾カモメ」が編隊を組んで飛来してくる!
名前 爆弾カモメ
体力 : 380
攻撃 : 285
防御 : 100
素早さ:320
この世界で爆弾を背負って、突撃してくる飛行特攻隊のカモメのモンスター。
「砲撃手、配置につけ!! 照準手、目視で敵の軌道を追え!」
「了解っ!!」
「砲弾、セット完了!」
「点火よしっ!」
エリックは一瞬たりとも焦らず、的確な指示を出し続ける。
「敵、飛来角度45度! 一気にひきつけろ……!」
「撃てぇえええ!!」
――ドォォォン! バゴォォン! ズドォォォン!
連続で炸裂する大砲の音。爆風に空中で破裂する爆弾カモメの羽根が舞う!
「ナイス命中! 第2砲、次弾装填!」
「リリア、ちょっとそっち押さえて!」
「火薬係、次のケース用意して!」
全員が子供とは思えない手際で、敵を仕留めていく。数分後、爆弾カモメの残骸が海面に落ちていき、辺りは静かになった。
「敵影、全滅を確認。……ご苦労」
エリックが双眼鏡を下ろし、帽子を直す。
「見事なものですね……」
俺は思わずつぶやいた。
「これが、うちの日常ですから」
その一言に、グッときた。
(かっけぇえええーー!!)
顔よし、頭よし、指揮力よし、包容力もある。
(間違いない。こいつは……将来、絶対海軍将校になる男だ……!)
グレイスの子供たちは、ただの“チビッコ”ではなかった。海で育った、立派な“チビッコ海賊団”なのだ。
船の帆が大きく風を受けて膨らむ。
物語は、さらに大海原へと進んでいくのだった。