第8話 魔界の貴族、伝説級の魔獣になる
闇が激しく揺れ、虚無の城・第四層《零の墓場》に、死の残像が見え隠れする。
バトルの緊張は、すでに限界を超えていた。
だが、その“最終的な変身”があった。
アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス。
魔界の貴族。魔王軍最強にして、恐れられし冷酷な司令官。
その男が、不敵な笑みを浮かべながら、静かに告げた。
「……この姿になると、私は魔獣となり理性がなくなる。よって、お前たち全員が死ぬまで、私は襲い続けるだろう」
「アル隊長……!? が変身されるぞ!逃げろ!!」
驚愕の声を上げるのは、かつて彼の部下だった者たち。
だが、彼はすでに人の理を棄てていた。
黒いマントが風に舞う。
異様な重圧が空間を押し潰し、虚無の大地さえ軋む。
アイゼンハワードは、両手を掲げ、低く、荘厳な詠唱を口にする。
「目覚めよ、古き獣よ……闇よ、我が肉体を喰らい尽くせ。」
「王の血よ、魔獣の骨よ!真の姿へと具現せよ……」
「《魔獣 ライカントロス》ッ!!」
ズギャァァァァン!!!
漆黒の稲妻が天を裂き、雷鳴がアイゼンハワードの肉体を直撃する。
その姿が変貌していく。
優雅な衣を破り、皮膚が裂け、骨が変形し、毛皮が盛り上がり、全身が獣そのものへと再構成される。
咆哮が響いた瞬間
地獄の門が開いた。
黒き魔獣。
全長三メートルを超す、その威容。
雷鳴を宿す牙、鋼鉄すら砕く漆黒の爪。
闇と雷をまとい、魔王をも殺せると言われた“神殺しの魔獣”が、ついに現界した。
「ッ……これは……もう、人じゃない……天災級の魔物!」
リーリアの声が震え、風が彼女のマントを揺らす。
「ダイマオウ!」
ナンバ・ラッカが叫ぶ。「こいつ……マジでヤベェ!」
だが負けられない。
「来いよ……アイゼンハワード! 相手してやるぜ」
ダイマオウが、念道力を全身に集中させたその時
「《ベヒモス・コード 第八式──サラマンダー顕現》!!!」
ゴオォォオオオッ!!
ゴオォォオオオッ!!
アイゼンハワードが魔獣サラマンダーへと変身した。
全身から吹き出る灼熱の炎。
その時
背後に、シャルボニエの槍に紅蓮の炎が宿る!
「こっちだよ……神殺し!」
魔獣サラマンダーの爪が大地を裂き、空を喰らう。
しかしその前に、竜槍の炎が、希望となって、閃いた!




