第八話 リーベルでの結婚式
反逆の戦士バルドルの突然すぎるプロポーズに、
「結婚、してやるよ」と即答した女海賊グレイス・オマリー。
あれよあれよという間に、港町リーベルの崖にある教会で、本日、急遽結婚式が行われることになった。
ちなみに、おそらく魔族であるマーリンは興味がないと欠席した。(教会の聖なる力が嫌いなんじゃない?)
リーベル教会内にて
「いや、はやすぎるだろ……こんなスピード婚ってあるんだな。プロポーズの次の日だぜ……」
俺は教会の前列に座りながら、小声で勇者アルベルトにぼやいた。
式場となった教会は、もともと海を臨む礼拝堂で、小規模ながら清らかで美しい。
リーベルの住民たちも大勢駆けつけて、すっかりお祭り騒ぎになっていた。
グレイス・オマリーは、真っ白なドレスに身を包んで現れた。と言っても、ドレスの袖は肩まで引きちぎられ、筋肉むき出し、スリットからは太ももの剣傷がのぞいている。
「うおぉぉぉぉ……!!」
「オマリー姐さん、かっけぇ……!」
「惚れた……!」
観客から感嘆の声がもれる。
一方のバルドルはというと、鎧姿のまま、緊張して腕をガチガチにしていた。ひげと髪の毛は床屋にいって綺麗には、なっている。
「だって……正装とか持ってないし……」
「うん。バルドルらしくていいよ」
と、グレイスが笑いかけると、バルドルは顔を真っ赤にして目をそらした。
式を取り仕切るのは、まさかのシスターマリア。
「本日は、神の御前にて、二人の愛を祝福する結婚式を執り行います」
マリアが神妙な顔で言うと、教会の中はピンと張り詰めた静寂に包まれた。
しかし――
「誓います!誓います!!俺、グレイスのこと、めっちゃ好きです!!誓います!!」
バルドルが食い気味に叫ぶ。
「え、まだ聞いてないから!ちょっと待って!」
グレイスがツッコミを入れる。
「バルドルさん、誓いの言葉はまだ早いです……」
とシスターマリアが困り顔。
「す、すみません!!でももう、心が爆発しそうで!!」
(バルドル「バカすぎる……」)
俺は思わず頭を抱えた。
シスターマリアの導きで、いよいよ誓いの言葉の時間がやってくる。
「あなたは、健やかなるときも、病るときも、この者を愛し、敬い、 慈しむ事を誓いますか?」
その瞬間、バルドルの目がカッと見開かれ、叫んだ。
「はい!結婚は止めません!そして……死体は土葬でお願いします!」
「…………。」
教会がしーんとなった。
「おい待て。」とグレイスがぴくりと眉を動かす。
「なんで急に土葬の話!?結婚式よ。」
「いや、だって“止めるとき”とか“死体”っぽいこと言ってたから……結婚止めたいのか死体どうする?って聞いてなかった?……」
勇者アルベルトが膝を叩いて爆笑。
「お前、誓いの言葉を終活プランと勘違いしてるだろ!!」
シスターマリアも口元を抑えて小さく咳払い。
「……あの、もう一度言いますね。誓いは、病気や困難があっても、この方を大切にするという意味です。亡くなったあとの埋葬方法ではありません。」
「なるほど……!そういうことか!じゃあ、ちゃんと答えます!」
シスターマリア、今度は少しだけ慎重に問い直す。
「では、もう一度。あなたは健やかなるときも、病るときも、この者を愛し、敬い、 慈しむ事を誓いますか?」」
「はい!今度こそ、誓います!!生きてる間は、全力で!!」
会場中が拍手と笑いで包まれた。
グレイスも「ったく、しょうがない男だよ」と苦笑しつつ、どこか嬉しそうだ。
「それでは、誓いのキスを」
二人がゆっくりと顔を近づけ、唇が触れた瞬間、教会の中が一斉にわき上がった。
「おめでとーー!!!」
「オマリー姐さん、幸せになってくれーー!!」
「花吹雪じゃああ!!」
色とりどりの花びらが空中に舞い、祝福のフラワーシャワーが二人を包み込む。
「グレイス・オマリー!最高だよ!」
「バルドル!幸せにしろよー!」
バルドルは目を潤ませながら言った。
「こんな幸せな気持ち……初めてだ……」
だが、幸せムードはそこで終わらなかった。
「母ちゃんー!!!」
「かあちゃーん!ドレスすっげぇー!!」
「俺たちの新しい父ちゃんだってー!?」
突然、教会の外から駆けてくる小さな足音。
見ると、10人もの子供たちが、花びらを踏みしめながらグレイスに駆け寄ってきた。
「え……誰?」
と、バルドルがきょとんとする。
グレイスはにっこり笑って、
「紹介するよ。あたしの子供たちさ」
「……えっ?」
「そう、あたしのガキたち。10人。あんた、今日からこの子たちの父ちゃんだよ」
「えっ!?えええっ!?えええええええ!?」
バルドルの目が白目になりかける。
「て、ていうか、グレイス……え、前に結婚……?」
「8回だよ」
「8……回!?!?」
「みんな違う旦那の子だね」
「違うんかい!!!!」
バルドルがずっこけた。
子供たちはキラキラした目でバルドルを囲み、
「とうちゃーん!」
「肩車してー!」
「今日のごはんなにー?バルドル父ちゃんがつくるの?」
「戦士のスープってどんな味ー?」
「ま、まてまてまて!!心の準備が……いや、準備しても無理!!」
グレイスが肩をぽんと叩く。
「バルドル、しっかりしな。あんた、今日からこの子らの食い扶持を背負うんだよ」
(怖っ……!!)俺は思った。行き成り10人の子供を肩に背負わされたバルドル、不憫すぎる。
グレイス・オマリーは凄くモテるし、子供を沢山産んでいた。肝っ玉母ちゃんだった。
「それに、この子たちは全員、うちの海賊船の乗務員だよ」
「えっ?」
「舵取り、砲撃手、見張り、調理係、医務係……うちの船、ほぼこいつらで回してるから」
「まじで、いきなり大家族だな!?」
バルドルは大笑いした。
こうして、反逆の戦士バルドルは
海賊船の“新しい父ちゃん”として、俺たちの旅に同行することになったのだった。
「これからは反逆の逆の戦士バルドルだ」
(つまり反対の反対は正解みたい事を、いいたいのだと思う。すごく、わかりづらいし頭が悪いです。)
俺は思った。
この結婚により戦士が2人に勇者が1人 魔法使い1人 僧侶1人 村人1人で海竜リヴァイアサンへの闘いへ挑む。リスクたち海の冒険は始まろうとしていた。