第2話 幻影の円舞、虚構の勇者《正門チーム》
虚零の城第一層 幻影の円舞
そこは、音もなく、匂いもなく、空間すら歪むような異様な世界だった。
白く霞んだ靄の中、何が本物で何が幻か、わからない。
「チッ……気持ちわりぃとこだな」
ダイ・マオウは肩で息をつきながら前を睨みつけた。
すると――
「……まさか……あれは……」
ナンバ・ラッカが呻いた。
霧の向こうから、“黄金の鎧に身を包んだ男”がゆっくりと歩いてくる。
その姿に、誰もが一瞬で凍りついた。
「アルベルト……勇者アルベルト!?」
かつて世界を救った英雄、そして――
ダイ・マオウの父、アルベルトの幻影が、そこにいた。
「ここで死ね、我が不肖の息子よ――」
「若いな……親父、アンタまで……かよ」
目の前にいるのは幻影だと頭では分かっている。
だが、言葉も、佇まいも、あの頃のままの父だった。
剣を抜いたアルベルトが、瞬時に駆ける。
その動きは、まさしく勇者、最強だった頃の彼そのもの!
ガギィィン!!
打ち合う剣と拳。霧が激しく吹き飛ぶ。
「どうした、ダイ? その程度の力で“魔王”を名乗るのか?」
「黙れ……!俺は、任侠背負って戦ってんだ!!」
だが、次の瞬間
アルベルトの剣が、ダイ・マオウの肩を斬り裂いた!
「グッ……がはっ!!」
背後ではユキネとウルウル、トランスジェンダーが幻影の雑兵たちと交戦していたが、
それでもダイとアルベルトの一騎打ちには誰も割り込めなかった。
幻影のアルベルト(記憶の具現)
「お前はただの“器”だったんだ。破壊と暴力の象徴。
私はそんな“失敗作”を残した覚えはない。」
「……ああ、そうだよ。
でもな、親父。俺が“本物”かどうか、今から証明してやるよ――」
ダイ・マオウが、拳を握る。
彼の拳が赤く燃え上がる。
魂を震わせる一撃 “義拳・魔王烈破”!!
「てめぇの理想も過去も、俺がおやじを超えてやるッ!!」
「俺が魔王だッ!!!」
ダイの拳が、幻影の勇者を突き抜けた。
―パアァァァァ……
幻影は砕け、無数の光片となって虚空に消えていく。
だが、その中に、微かに父の笑みが浮かんでいたようにも見えた。
「見事だ、ダイ……。
やっと“お前の道”を歩き始めたな……」
「……おやじ……」
霧が晴れ始め、第一層の扉がゆっくりと開かれる。
立ち上がる仲間たちの背を、風が吹き抜けた。




