第2話 ダルツライ登場《寝袋から出たくない系傭兵》
古都フォーレスの片隅。
傭兵とならず者が夜な夜な集う、退廃と酒精の香りが染みついた街の酒場〈ラストクレイドル〉。
だがその夜、客たちはひとりの“妙な塊”に視線を向けていた。
「……動いたぞ」
「何だありゃ、寝袋? いや、生きてんのかあれ……?」
壁際の床に転がる一つの寝袋。
もそ、もそ、もそ、と不自然に動いている。
あまりに馴染みすぎて、清掃員ですらスルーした存在だが
その中に潜む少女の名は、ダルツライ。
寝袋を精神安定装置と呼び、ライフルを相棒とする、
無気力かつ圧倒的な射撃力を持つ“寝袋スナイパー”である。
「……動かないでください、寝て撃つんで」
と呟いたその数秒後
──パシュン。
乾いた音と共に、入口の吊るし灯りが撃ち抜かれた。
ガシャーン!!
「何だ!?」
ダイ・マオウが即座に身をかがめる。
「今の魔導弾道……完全にこちらを狙ってたわね」
リーリアが魔力を走らせる。
「うおおお、今の音、完ッ璧やわ!最高やな!!」
ナンバ・ラッカは何故か大興奮して爆弾を構えかける。
「……寝袋、狙撃手、伏兵の可能性あり」
ユキネの目が鋭く光った。
やがて、寝袋の中からぼそりと声が響く。
「……別に撃ちたくて撃ったんじゃないし。
ていうか、こんな夜にうるさすぎんの。寝たいのに……」
ダルツライ本気を出さずに戦うことに定評のある、
“転がる傭兵”の登場である。
寝袋×移動=転がるという選択
ダイが歩を進めると、寝袋がコロコロと横へ転がる。
「……近い。近寄るな。パーソナルスペース侵害……」
転がるたびに床が軋む。
「ちょっとちょっと! 寝袋のまま移動する人初めて見たよ!」
リーリアがツッコむ。
「爆弾で押し返してもええか?」
「やめなさい」
その時、寝袋からスッと銃口が伸びる。
魔導式長距離ライフル〈リヴァイア〉。
銃身に刻まれた魔紋が青く光る。
「……戦いたくないけど、ゼロ部隊から“ダイマオウ討伐”って言われてんのよ。
寝袋から出なくても勝てるなら、それでいいじゃん」
パシュン! パシュン!
ダイの袖をかすめて、弾丸が飛ぶ。
彼女の照準は正確。
寝袋から出ず、足で体勢を調整しながら、寝転がったまま銃を操る。
「まじで狙ってきてる!? え、これ本気じゃん……!」
「本気じゃないし」
寝袋の中から冷静なツッコミが返る。
そしてツンデレ発動
ダイが一撃で寝袋ごと彼女を壁に押し付ける。
「っ……ぐ……。寝袋がなかったら……骨いってた……」
ダルツライがふてくされたように口を尖らせる。
「……ちょっとは強いじゃん。だから余計ムカつくんだよね……
その真っ直ぐな目がさ……バカみたいに真面目で、見てるとイラッとする……」
「だったらついてくればいい。見張り役でもなんでも」
「は!? 別にアンタに興味あるとか、そういうんじゃないし!!」
寝袋がポン、と跳ねるように動いた。
「でも……勝手にやらせといたら、絶対どっかで死ぬタイプだなって思っただけだから。
あーあ、面倒くさい……。付き合ってらんない。いや、付き合ってないし!!」
ダルツライ、寝袋ごと旅に出る。
「えっ仲間になるの?寝袋のまんま}
リーリアがツッコミを入れたが仲間になるらしい。
こうして、寝袋から出る気ゼロのスナイパー少女が、
“寝ながら守る”という常識外れなスタイルでパーティーに加わった。
彼女の活躍は、
“コロコロと転がりながら銃弾で味方を援護する”という、
斬新すぎる戦闘スタイルで、これから幾度も伝説になることとなる。




