第3話 IQ310の演算魔術師 『1000枚のプリント vs 二丁拳銃!? 勝つのは計算か、気合か!』
風が止んだ。
空気が、変わった。
そしてリーリアが静かに言った。
「来たわ……“あの系譜”が……」
次の瞬間、丘の向こうから紙吹雪のように何かが舞い散る。
いや紙吹雪ではない。
プリントだ。
正確に四隅をホッチキスで留められた、A4のプリント1000枚。
ドドドドドドドド!!
「どわああ!? 目に刺さるぅぅ!!」
ダイはバサバサと紙にまみれて転がる。
その紙の雨を割って、悠然と歩いてくる少女がいた。
無表情。眼鏡。三つ編み。
腕には巨大なバインダー、背中にはプリンタータンク、腰には理数辞典×8冊。
名を
「私はダイソン・サイクロン。マリ・キュウリの曾孫にして、次元数式演算魔術師」
ドンッ!!
「IQ310……!」
リーリアが歯ぎしりする。
「ようやく出会えたわ、公式で世界を変えようとする系女子……」
ダイソンは淡々と言った。
「この“魔界人口分布モデル”によると、あなたたちの勝率は2.4%。ついでに、あなたたちがこのまま旅を続けると、平均寿命は6日短縮されるわ」
「えぐっ!!?」
ダイが素で引く。
ダイソンはバインダーからプリントを次々に取り出し、戦場に撒いた。
魔力を帯びた紙が空中で浮かび、数式が走るたびに重力や気温が変化していく。
「これが……プリント掃除機魔術……!」
リーリアが呆然とつぶやく。
ダイはというと―
「よーわからんが、つまりコイツはプリントに魂を売ったってことやな!?」
「違う。計算と計画に基づいて行動する者が“正義”なの。無意味なビームや拳銃に頼る時代は終わったのよ」
それを聞いたダイ、グラサンをかける。
「ほう……お嬢ちゃん。
IQがいくつあってもな、
“カッとなったときの火力”は計算できへんのや……!」
ガシャッッ!!
二丁拳銃、抜刀。
「行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
リーリアの制止も聞かず、
気合だけで突っ込むダイ・マオウ!!
ズガガガガガガガ!!
プリントが燃える、数式が焼ける!
「やめなさい、それは論理が崩壊するっ!!」
ダイソンが必死に数式を書き換えるが、弾丸の方が速い。
「空間が……捻じれる……IQが……ッ!!」
結果
「……うぐっ、敗北原因:気合量……計算不能……」
ダイソンはプリントの山に埋もれて沈黙した。
「へっ、だから言うたやろ。拳銃はロジックを撃ち抜くんや」
「……そのセリフ、世界であなただけよ……」
リーリアは頭を抱えながらも、勝ったことには違いないと小さく笑った。
夕暮れの中、プリントの焦げ跡が風に舞う。
その中で、ダイソンは目を開いた。
「……やはりこの世界、計算では追いつけない要素が多すぎる。ならば、私も……“変数”を使う時が来たかもしれない」
ダイソンは敗走した。
次に彼女が再登場するとき、IQ310に"感情"というバグが加わっているとは、
誰も知らなかった。




