第9話 錬金より造り出された、しゃべるパン、脱走す。
錬金術研究所の朝は、今日も騒がしい。
いや、いつも以上に騒がしい。
「完成やぁああああああ!!」
爆発音とともにラボの壁が一部なくなり、屋根から小麦粉の雪が降り積もる。
その中心に立つのは、粉まみれのナンバ・カゲツ。
「ついに、やったでぇ……!人格付きパンの錬成、成功やぁあ!!」
「うわぁあああ!?また爆発してるぅうう!!」
「これパン!?生きてるパン!?」
ドジっ子双子天使、セクシャルとバイシャルも悲鳴とともに転げ回る。
実験の目的はこうだった。
「美味しくて、人格もあって、友達にもなれるパンを錬成しよう!」
(※近所の子どもに「パンも友達になれば怒られないのに」と言われたのが発端)
しかし、結果生まれたのは、想像の斜め上をいく“人格パン”6種。
◆人格付きパン6種◆
① パンク=ザ=パンク(カレーパン)
「燃えてなんぼじゃねぇかッ!俺は揚がって生きてんだよ!」
ロック魂を持つカレーパン。口癖は「〜じゃねぇよ!」。
ギターを背負い、研究所内で即ライブを始める。
② クリーミィ・ブリオッシュ(クリームパン)
「わたくしほどの発酵淑女、他にいらして?」
上品な振る舞いと謎の色気を持つマダム系パン。
バターを塗られると「もっと……♡」と喜ぶ危険な仕様。
③ ベーグル兄貴 (ベーグルパン)
「筋肉は焼きたてでなければならないっす!!」
筋トレ命の熱血パン。プロテインの代わりに強力粉を舐める。
全力でスクワットしてるうちに床が抜ける。
④ シュガーホラー・デニッシュ (デニッシュパン)
「ねぇ……食べてくれないと泣いちゃう……ふふ……」
かまって系メンヘラパン。
感情で甘さと体積が変化する。泣くと10倍に膨らむ。
⑤ トースト・アインシュタイン(トースト)
「我、焼く。ゆえにパンなり。」
哲学者パン。誰も聞いてないのに“パンとは”を語り出す。
知識量は天使よりあるが、語り出すと止まらない。
⑥ クロワッサン・ルージュ(クロワッサン)
「革命とは、バターの層から始まるものよ。モン・アミ♡」
ナルシスト系芸術家パン。フランス語を多用。
自分の肖像画を美術館に勝手に飾り始める。
「こいつら……もしかして……めっちゃ自由人!?」
バイシャルの叫びが終わらぬうちに
\\\パンたち、大脱走!!///
ラボの窓から、戸から、煙突から、ありとあらゆる出口から飛び出す6つのパン。
誰も止められない。彼らには胸の奥には熱い“パンの心”があるから!!
セクシャル「逃げたぁぁ!?誰かバター投げて!!」
カゲツ「もう無理や!町が!町が粉まみれになるぅうう!!」
その日の午後。
町はパンの反乱で地獄絵図と化していた。
・カレーパンが公園でライブ開催、スピーカーを爆破
・クリームパンがスイーツコーナーを「私の宮殿ですの♡」と占拠
・ベーグルが体育館でスクワット大会開催中
・デニッシュはショッピングモール内で「甘くなりたいの……!」と膨張中
・トーストは大学の講義室をジャックし、独自哲学「トースティズム」を布教
・クロワッサンは市役所を「革命政府バターレン」本部に改装済み
兵士「いや、パンです。パンが暴れてます」
市民「トーストがウチの子の名前覚えてる……なんで……?」
市長「市の運営が……パンに……ッッ!!」
もはや完全に町は「パン共和国」。
研究所では、3人が黙々と証拠を焼却中。
セクシャル「この試作メモも……ポイッ……」
バイシャル「こっちの“パン性格設定表”も……ポイ……」
カゲツ「バレへんかったら爆発ちゃう。芸術や。」
その頃、町ではパンたちが香ばしさに目覚め、
自ら“焼かれる幸せ”を求めてトースターに飛び込む現象が発生。
トースト・アインシュタイン「……焼かれるとは、終わりにして始まり……」
カレーパン「……俺の魂、燃え尽きたぜ……」
\\\ ポン……パチ……ッ ///
パンたち、パンに戻る。
その結果
なぜか国から「事態を静かに解決した謎の天才錬金術師」として表彰され、
\\\ 金貨5000枚、授与。 ///
カゲツ「マジかいな! 次はどら焼きやってみよか!」
セクシャル「パン……また作りたいな……(恋)」
バイシャル「うん……絶対失敗するけど……それも楽しいから……!」
ついに実験の結果、思わぬお金を手にすることができた錬金ラボチームだった。




