第五話 同族嫌悪・ オラオラ対決
ウィンザー城で女王からの紹介を受け、新たな仲間「海賊戦士 グレイス・オマリー」が俺たちの元に加わった。
グレイスは鋭い目つきと、戦いで鍛えたような引き締まった体つきで、海の風に晒されたような褐色の肌。腰にぶら下げた大ぶりのカトラス(湾曲した刃を持つ、片手で扱う刀身が短い刀)が、只者じゃないことを物語っていた。
俺とグレイスは、城の外で待っていたマーリンとシスターマリアのもとへ向かった。
シスターマリアが柔らかく会釈する中、グレイスが不敵な笑みを浮かべながら、両手を腰に当てて堂々と名乗る。
「あたしの名前はグレイス・オマリー。海賊にして戦士、そして最強の船長よ。今日からアンタらと海竜退治だ。覚えときな」
その瞬間――
後ろでふわっと腕を組んだまま、黒魔術師マーリンが盛大にあくびをかました。
「ふぁあ〜〜……うん、野蛮な海賊さんね。はいはい。お名前、覚えておきますわ……一応ね」
グレイスの表情がピクリと動く。
右の眉がぐいっと吊り上がり、笑みが徐々に消えていく。唇の端がキュッと吊り上がり、目元には鋭い光が宿る。
グレイスが低い声で
「……今、アタシの自己紹介中だったんだけど?」
マーリンは腕を組んだまま、つまらなそうに片目だけでグレイスを見る。その瞳はどこか小馬鹿にしたように細められていた。
「聞こえてましたわよ?でも正直、興味が湧かない内容でしたもの。粗暴で無教養な女海賊の自慢話なんて」
その言葉に、グレイスの表情が一変する。
目がギラッと光り、鼻から荒い息を吐き出した。こめかみに青筋が浮かび、拳がギュッと音を立てて握られる。
「ハァァァ!? てめぇ今なんつった!?」
「あら、通じなかった?ゆっくり言いましょうか。“興味が、ない”のですのよ。あなたのような低俗な――」
「てめぇ、年いくつだよ?年上にその態度、舐めてんのかコラァ!」
マーリンが目を細めて冷笑した。
「年齢で上下を決めるなんて、いかにも頭の悪い人間の発想ですわね。力も誇りも“年”で決まるなんて、お笑いですわ」
バチッ!と火花が散った。
グレイスとマーリン、互いに半歩踏み出し、額がぶつかる寸前の距離。睨み合い、どちらも一歩も引かない。シスターマリアは静かに後ずさる。
「その澄ましたツラ、ぶん殴ったらどんな顔になるか楽しみだなァ!」
「ふふ、下品な言葉。やはりあなたには知性も品も感じませんわ。まるで野犬」
「上等だテメェェェェ!!! タイマンだ表へ出ろ!!」
「やりますの!? 今 、外にいますけどね。」
「ちょ、ちょっと待って!ストーップ!もう勘弁して……」
俺は両手で頭を抱えた。
冷や汗が背中を流れ、頭の中で「やばいやばいやばい」と警鐘が鳴りまくる。せっかくの新戦力なのに、初対面からぶつかり合いってどういうこと!?
「あァ!?村人は黙ってろ!」
「同感ですわ、村人はひっこんでなさい。」
「ぐっ……!ちょ、ちょっと提案!提案させてくれ!」
ふたりの怒気が俺に向いた瞬間、俺は絞り出すように言った。
「……海竜リヴァイアサン、あいつを先に倒したほうが“勝ち”ってのはどう?お互いの実力で決めよう、ってことでさ」
一瞬、静寂が降りた。
グレイスとマーリンが同時に俺をじっと見つめる。険しかった空気が、ふっと変わる。
グレイスがニヤリと笑う
「……ふん、悪くねぇな。それでこそ勝負だ」
マーリンが薄く笑った。
「そのルール、受け入れますわ。“実力”なら、文句なしですものね」
「ふぅ……」
俺はようやく肩の力を抜き、ぐったりとその場に座り込みそうになった。
アルベルトは腕組みしながら笑っている。
「やっぱ喧嘩するほど仲がいいって言うしな〜、うんうん仲がいい」
シスターマリアは、無責任な発言をする。勇者をみて呆れていた。
「勇者様は本当にお気楽ですね……」
マーリンの毒舌に、グレイス・オマリーのブチ切れパンチが炸裂寸前。お互い譲らない気の強さ、俺は見てて胃が痛ぇ。
これ、間違いなく“同族嫌悪“ってやつだ。
表向きは「お前の生き方気に入らねぇ!」って言ってるけど、たぶん心のどっかで「自分に似たタイプがもう一人いる」ってことに無意識でイライラしてんだろうな。
マーリンはプライドの塊。自分は選ばれた天才だって思ってるし、他人に舐められるのが大嫌い。
グレイスは直情的だけど、実は誇り高くて義理堅い。海で揉まれて、誰にも頭下げたくないって気持ち、たぶん骨の髄まで染みついてる。
どっちも「自分の価値観を曲げられたくない」タイプなんだよなぁ。
そして、似てるからこそ認めたくない。
似てるからこそ、張り合いたくなる。
……ああ、これはもう火と火がぶつかってるだけ。水がねぇ。オレ補給係だし水を補給しよう。
って完全に消火係だよ。
にしても、こういうのって他人事で見てる分には面白いけど、
物資補給係としては、マジで地獄。
パーティーの空気が最悪です。
いやほんと、誰か代わってくれ。
俺は、もっと、みんなが楽しい仲良しな旅がしたいんですけど?
こうして、まさに“オラオラ”同族嫌悪な女たちの火花散る出会いは、命懸けの勝負へと昇華された。
果たして勝つのは
海賊女王 グレイス・オマリーVS 魅惑の黒魔術マーリン
どっちだ!?