第6話 初めての成功、そして……
「さあ、今日こそウチらの歴史を変えるでぇー!!」
ナンバ・カゲツが叫んだ朝。
セクシャルは相変わらずエプロンを逆に着ていたし、
バイシャルはもう5回転んで、天使の輪が少し曲がっていた。
それでも今日はどこか、いちもと空気が違っていた。
「よし!今日の実験は“食べ物を増やす錬金術”や!」
「それって……成功したら、食費が浮くってこと……!?」
「それどころか、おかわり無限やで!!」
試験管に、
魔法酵母、増幅触媒、ほんのちょっとの塩。
そして
今日もセクシャルがドジを封印し、魔力をそっと注いだ。
「……できてる、できてる……!」
「う、うそ……!?」
「……試験管、割れてない!!」
バイシャルが口元を押さえ、震える声で言う。
「中に入れたパンが……2個になってる……!」
「3個になってる……456789!」
「10個!?いや、20個!?!?!?」
「ぎゃあああ!錬金パンの波が!パンがパンパン!!」
でも、誰も止めなかった。
パンが増え続けて、ラボ中が炭水化物まみれになっても、
食パンとロールパンとあんパンの大洪水になっても、
だってこれは、“成功”だったから!
「うわあああん!奇跡やぁああ!!」
「ついに、ついに!試験管が割れなかったああああ!!」
「食べ物が無限に増えた!食べ物が増えたよぉおおお!!」
セクシャルとバイシャルが、粉だらけになって泣きながら抱き合う。
ナンバ・カゲツは鼻をすすりながら叫んだ。
「……ウチ、今日のことは忘れへん……」
「今まで999回失敗して、やっと今日、やっと成功したんや……!」
そのときだった。
——ドォオオオオン!!!!
感極まったカゲツが、喜びのあまり魔力ごと天井を突き破る爆発を起こした。
無限に増えたパンが消滅して光と瓦礫が、ラボを超えて空に舞い上がった。
「屋根なくなった……」
「うん、空見えてるね……天気イイネ……」
「っていうか、屋根どこ飛んでったん……?」
絶望的な光景のなか、
ナンバ・カゲツはおもむろに袖をまくり、満面の笑みで言った。
「よっしゃ!!みんなで屋根、直そか!!」
「えええ!? 今そのテンション!?」
「今日の成功は確かにすごい。でもな、ウチらの失敗はまだまだ続くんや!」
「なんでそんなに前向きなの!?」
「せやけど、それがええんや。“失敗の中の成功の失敗“や!」
セクシャルとバイシャルはぽかんとした顔で見つめる。
「つまり、失敗のなかに成功があって、その成功もまた失敗ってこと……?」
「ようわからんけど、すごいポジティブ!」
「ええやん、ポジティブの極地や!屋根直したらまたパン作れるしな!」
こうして。
屋根のかわりにタープを張って、
バラバラになったパンくずをつまみながら、3人は笑っていた。
「まだまだ失敗は続くんや」
でも失敗のその先には
また、こんなふうに笑える“奇跡の一瞬”が待っている。