第2話 はじめての錬金術!999回、失敗しても大丈夫!?
【ゼロ部隊の錬金ラボ】
「よっしゃ、今日はウチが“基本のキ”を教えたるで!」
爆発跡の床をホウキで雑に掃きながら、ナンバ・カゲツは今日も笑顔。
その背後で、バイシャルとセクシャルは借りてきた子猫みたいに縮こまっていた。
「えっ……これが“基本”? 床、焦げてない……溶けてる……?」
「わたし、エプロンに穴あいてるぅ……」
セクシャルは今朝も5回転んで、既に髪に粉じんがこびりついている。
「ええか、基本の鍋錬金ってのは、素材を入れて魔力を注ぐ。ほんで混ぜる。ただそれだけや」
「ただそれだけで……毎回爆発するんですね……?」
「それは魔力の入れ方が下手やからや。たとえば、アホみたいに一気に注ぐとな……」
——ドガァァァァン!!!
「そうなるんや。せやから気ぃつけてな!!」
カゲツは爆煙の中で親指を立てていた。
「言う前に爆発してたよ!?」「説明のタイミングが爆発の後なんだよ!!」
それでも、双子天使はチャレンジした。
大鍋に薬草を数枚、錬金粉を少々、魔力の源水をちょろちょろ……
セクシャルがそろりと注いだ魔力が、ぷるぷると鍋の表面を揺らす。
「や……やってる、やってるよバイシャル ん……!」
「見て、鍋が光ってる! まだ爆発してない!」
「よっしゃああ! このままいけば……!」
——ドガァン!!
「転んだぁあああああぁぁ!!!」
セクシャルが足元のコードにつまづき、手にしていた調味料の瓶が宙を舞う!
「なんか青い粉が!」「こっちはタコの干物!? それ食材!?!?」
それらが鍋に——ドボォン!
——ブゥゥゥゥン……モコモコモコ……
そして、鍋の中から、生えた。
「あ……あれって……」
「……キノコ……?」
バイシャルが震える指先で鍋を指す。
そこには、極彩色でピカピカ光る、フリフリのスカートみたいなキノコがもりもりと繁殖していた。
「うわあぁぁ! なんか生えてるー!」「なにこれ生きてる!? 動いてる!?」
「せやから言うたやろ! 素材を間違えると“未知の錬菌生命体”になるって!」
「生命体って言った!?!?!?」
しばしの沈黙のあと
「でも……香りは……」
「うん……なんかおいしそうかも……?」
「キノコ鍋やんか! 食えるかもしれんで!」
その夜、三人は鍋を囲んだ。
爆発はなかった。笑顔もあった。
でも。
「ぐぅ……おなかが……キノコ……キノコが夢に……」
「世界が……ぐにゃぐにゃしてるぅ……」
「うち……納豆食べとる夢見た……うち……納豆嫌いやのに……」
結果、三人そろって毒キノコにあたり、3日間寝込む。
病院送りにすらなれなかったのは、ラボがあまりにも危険で誰も近づけなかったから。
3日後。布団から復活したカゲツが、ヨレヨレの声でつぶやいた。
「……せやけど……」
「……せやけど?」
「なんか……幸せやったな。」
「えぇぇぇ!?!?!?!?!?!」
「1回の成功と、999回の大失敗すれば……」
「……成功やないの!!!」
そんなわけで、はじめての錬金術は毒キノコでポジティブにフィニッシュ。
でも、また明日も挑戦できる。それが、このラボの日常。