【最終話】 音痴による破壊と再生のラストステージ
――音痴でしか変えられない世界が、たしかにあった――
デスエンンジェル
音痴の女神、オーヤン・フェーフェー
睡眠の天使、オンチリーナ=スヤリス
ふたりの音痴が交差した瞬間、世界は震え、涙し、笑い、そして破壊で癒された。
マリ・キュウリの地獄営業と、魔界全土を巻き込んだ破壊ライブの数々で、借金17億ゴールドは完済。
命の危険は常に隣り合わせだったが、それでも観客は集い、倒れ、そして愛した。
そしていま
そのすべてに、幕が下りようとしていた。
【エコーサンドーム:魔界最大の音響ホール(※現在は廃墟)】
観客50万人。安全ヘルメット着用義務。
【最後のデスライブ】が始まる。
巨大スクリーンに映し出されたのは、舞台中央に立つふたりの音痴。
フェーフェー:「フゥオアアアアアアッ!!!!」
(訳:ありがとう!!魔界!!そして地上界!!)
オンチリーナ:「……これで最後……私……普通の女性に戻ります……Zzz」
(観客騒然)
観客A「オンチリーナが、男と手つないで入ってきたの見たぞ!!」
観客B「彼氏どころか、婚姻届け持ってたよ!!」
観客C「最初からオチてたんかい!!」
(オンチリーナ、苦笑いで眠る)
ふたりの最後のデュエットが始まる。
泣きながら笑う観客、笑いながら泣くマリ。
そして、全建物が崩壊する音圧の中、ただ一つ残ったのは
「この歌を、きっとまた音痴の誰かがきっと歌う」
そんな、音痴のバトン。
◇「音痴でグッバイサヨナラ また明後日に会う日まで知らんけど」◆
(ジャンル:涙腺ぶっ壊し系音痴バラード)
歌詞
♪ グッバイ サヨナラ 声はずれてるけど
気持ちは合ってる たぶん……知らんけど
♪ 今日までありがとう 聴いてくれてマジで
途中で逃げた人もいたけど 許すよ 多分な……
♪ 涙がでるって 言われた時には
反省したけど 嬉しかったよ……たぶん(訳:本当はすごく嬉しい)
(間奏:マリが紙吹雪を手で撒いてる。予算がないので)
♪ ピッチ外して リズムも迷子
でも“君の名前”だけは まっすぐ届けたかったんよ……!
♪ 上手くないことが 恥ずかしくても
それでも歌った理由は――“君がそこにいたから”
(観客すすり泣き)
観客A「くそ……ヘタなのに……泣ける……」
観客B「なんでだよ……なんでこんなに届くんだよ……知らんけど……」
♪ グッバイ サヨナラ また明後日な
予定は未定だけど そのうち会えるやろ……
♪ これが最後のステージって言ったけど
きっとまた歌いたくなると思う……知らんけど!!!
(ラストサビ:ハモってるようでハモってない感動の渦)
♪ さようなら〜〜〜〜〜〜(音が裏返る)
ありがとう〜〜〜〜〜〜〜〜(息が切れる)
だいすきだあああああああああああ!!!(マイクが爆発)
\\ 知らんけどッ!!!! //
(ライブステージからフェードアウト)
【ラスト演出】
ステージが爆発して火花が舞う中、マリが涙ぐみながら拍手
フェーフェーが客席に向かって土下座(※音圧で観客が吹き飛ぶ)
客席全員、感動で嗚咽してるのに「知らんけど」とうなずいている
【マリの一言】
「……これで感動するなんて、耳って不思議ですね」
「でも、届いたのは、たしかよ。知らんけど。」
崩壊したステージの上、手をつないで立つふたり。
オンチリーナ:「……すごく……いい夢だった……Zzz」
(彼氏にお姫様抱っこされて退場)
フェーフェー:「フゥオ!(訳:さて、次は私の恋の番よ!)」
マリ:「えっ……私……恋とか無縁の人生だったのに……」
フェーフェー:「フゥォ!(訳:知るか!愛に飛び込めッ!!)」
マリ:「はいはい……じゃあもう、この手は……離しませんからね」
【エピローグ】
・魔界新聞:「音痴革命、完結。魂で歌えば世界は変わる(知らんけど)」
・音楽業界:「耳栓付きコンサート」が業界標準に
・人々の心に:“フェーフェーのデスボイスは、うるさい。でも、うれしい。”
夕暮れのなか、焼けたコンサート会場跡地で、マリとフェーフェーが手をつなぎ、歩いていく。
マリ「ところで次、どうするの?歌わないって言ったでしょ?」
フェーフェー「フゥオ(訳:今度は……愛を育てるのよ)」
マリ「お金は全部燃やしたけど?」
フェーフェー「フゥア(訳:また借りればいいわ)」
マリ「……ほんとに、あなたって人は……カスが!」
ふたりの笑い声が、廃墟のライブ会場に、こだまする。
『デスボイスは愛を壊すか 〜歌姫オーヤン・フェーフェー 魔界ラブ&ライブツアー〜』
【 THE END】
結論、音痴は罪じゃない。音痴は、愛だ。