第四話 国家認定の海賊
ウィンザー城――
荘厳な石造りの城壁がそびえ立ち、無数の尖塔が空を突く。
床面積およそ45,000平方メートル。世界最大の城であり、ブリティッシュ王国が誇る王宮の象徴だ。
俺たちは、港町リーベルから首都ウィンザーに到着し、エリザベード女王との謁見のため、賓客の間へと通された。
広間の両脇には、重厚な鎧に身を包んだ兵士たちが整列しており、視線だけで人を殺せそうな威圧感を放っている。
両脇に並ぶ兵士たちの視線が痛い。鎧のきしむ音が、俺の心拍数とシンクロしているかのようだ。
「ひ、ひえぇ……これ本当に来てよかったのか……俺、ただの村人なんだけど……」
俺は、場違いな空気に思わず体を縮こませた。
重厚な絨毯に足が沈むたび、足音が無駄に大きく響く気がして、変な汗が出てくる。
隣にいる勇者アルベルトが呆れ顔で俺を見た。
「落ち着け、リスク。見苦しいぞ。せめて堂々としろ」
「無理だよ! 俺なんかただの村人だぞ!? 」
しかし、俺の焦りは加速するばかりだった。なぜなら
「……あれ? マーリンは? 黒魔術師のマーリン、どこ行った!?」
振り返っても、その姿はない。
先ほどまで隣にいたはずのマーリンが、いつの間にか消えていた。
「こういう所が苦手らしい」
アルベルトがふうっと溜息をついた。
「またか……。あいつ、またバックレやがった。」
あいつ魔族だから、多分バックレたんだと俺は思った。
そんな騒がしいやりとりの中、奥の扉が静かに開き、金と赤のローブを纏った一人の女性が入ってきた。
エリザベード女王だ。
その登場と同時に、広間の空気が一変した。まるで空気が凍ったような威圧感。
俺はあわてて膝をついたが、ぎこちなさすぎてまるで土下座のようだった。
女王は俺たちをじっと見つめながら、優雅に言葉を発する。
「リスク殿……でしたか? まるで農村の収穫祭から迷い込んだような服装ですね」
「ヒィッ、申し訳ありません女王様ぁっ!」
アルベルトが代わって前に出て、深く頭を下げる。
「女王陛下。我々は未知の新大陸を目指し、航海のための船を求めて参りました。どうかお力添えを!」
女王は少し頷き、椅子に腰を下ろすと、厳かな声で語り出した。
「船を貸し与えることは可能です。しかし一つ条件があります」
「じょ、条件とは……?」と俺。
女王は静かに、しかし重く語った。
【海の巨大竜 リヴァイアサン】―伝説の深海王―
かつてこの世界がまだ混沌に包まれていた頃
天空には「天空竜バハムート」、大地には「大地竜ティアマト」、そして海には「海竜王リヴァイアサン」が君臨していた。
その姿は、全長100メートル超。濃紺の鱗に包まれ、触手のようなヒレが波のようにうねり、瞳は星の如く輝く。
“深海咆哮”と呼ばれるブレスは、雷と高圧水流を纏い、海を切り裂き艦隊を一瞬で消し去るという。
「……このリヴァイアサンが、再び現れたのです」
と女王は語った。
「しかも、我らが貿易航路の近海に」
リスクが口を開く。
「で、その化け物を……俺たちが倒せってことですか?」
女王は微笑みを浮かべながら頷いた。
「正確には、“討伐を試みてほしい”というのが正しいでしょう。貴殿らには、特別に“国家認定の海賊”という称号を与えます」
「え? 国家……認定……?」
「はい。海を越える者には、王の許しが要る。そして、貴殿らの船を任せられる者が一人います。」
女王が手を鳴らすと、扉が開き、一人の女海賊が堂々と現れた。
「紹介しましょう。アイスランド王国の女海賊 グレイス・オマリーです」
その女は肩まで伸びた赤銅の髪を風になびかせ、黒のマントを翻してこちらに歩み寄った。
一見すれば貴族のように上品、だがその眼差しは戦場で生き抜いた者の鋭さを宿していた。
「へぇ、あんたらが伝説の竜とやらを倒すって連中か。面白そうじゃないか」
「ちょ、ちょっと待ってください! 本当に国家公認の海賊なんですか?」
と俺は聞く。
「そ。エリザベード女王と直接交渉して、この地位を手に入れたのさ。反乱を起こした子どもたちを止めるためにもね」
女王は満足げにうなずいた。
「グレイスは対談によって我が配下となった強き女性。今や王国の盾であり、矛でもある。彼女を仲間に加え、海へ出なさい」
アルベルトがふっと笑った。
「頼もしい仲間が加わったな。さあ、伝説の竜を討伐しに大航海へ出航しようか!」
そして俺たちは、新たなる海へ旅路 海竜リヴァイアサンとの死闘へと向かうことになるのだった。