第5話 恋の震源地はどこですか?
魔界ツアー一行は、音に敏感な“地響きの谷”へ。
そこで出会った地盤調律官・クラック=ラインハルトに、マリは生まれて初めて“感情の地割れ”を経験する。フェーフェーは大喜びで「恋バナ実況」に全力投入していた。
地響きの谷・地下構造 第0階層:共鳴石の底
――ズズズ……
「……オト……ウタ……クワエル……」
何世紀も眠っていた“音獣”こと、バサドゥ・グロアノン。かつて魔界の音楽家を丸ごと呑み込んだと言われる共鳴吸音型の魔獣が、フェーフェーの音痴なデスボイスを感知して目を覚ました。
「……クラックさんの言う通り、契約書は無効だった。
なのに、代替案を提示してくれて……しかも、私のミスを責めずに、静かに直してくれて……」
思い出すだけで、鼓動がリズミカルに跳ねる。
「……これは恋? 恋……なんですか……?」
「フゥゥフゥオアア~~~アアアアア!!(訳:完全に恋してるぅぅぅッッッ!!)」
無意味に照明を炊き、ハートの形のスモークを焚き出す。
観客の一部は「マネージャー告白タイムだ!」と勘違いし、花を投げ始める。
しかし、クラックは言う
「……マリ。君は僕に、恋をしているのかもしれない。 だが、僕は仕事に愛しすぎてしまった。だから、誰かと恋に集中をすることができない。……ごめん。」
マリ「……ッ!」
今まであらゆる交渉を仕切り、相手を理詰めで沈黙させてきた彼女が、
初めて“言葉を失った”。
「……そうですか。……いえ、わかります。 私は、恋も仕事も論理で処理しようとしていました。でも…… 気持ちは、関数に収まりませんでした」
そのとき、地面が悲鳴をあげた
ドゴオオオオオオォォォォン!!!
地下から突如、巨大な触手のような音波が天を衝き、会場を揺るがす。
「グゴゴ……ウタ……ホシイ……!ホロビノネヲ……!」
フェーフェー「フゥオア!?(訳:なんか出た!!)」
クラック「……出たか。“音を食う魔獣”……!」
クラック「このままでは、会場どころか、この谷全体が、地下へと崩落して奴に喰われる。マリ、君の歌姫……フェーフェーの“声”が鍵だ。 あれでヤツを飽和させて、腹一杯にして眠らせるしかない。」
マリ「……わかりました」
マリはフェーフェーに向き直る。
「歌って。全力で。破壊して。……その代わり、私が弁済全部引き受けるから!!」
「フゥオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!」
振動。崩壊。超音波。
谷の底が吹き飛び、音を食う魔獣がグワァァァと絶叫しながら昏倒した。
谷は半壊。だが魔獣は撃退され、
観客たちは「神ライブだった!」と叫び、口々にレビューを書き始めた。
そして、クラックは静かにマリに言った。
「……ありがとう。君のおかげで、谷が守られた。……でも、恋に応えられなくて、すまない」
マリは一瞬、静かに目を伏せ、こう答えた。
「いえ、大丈夫です。 私には、フェーフェーの“破壊ライブ”という、一生分の厄介ごとがありますから」
フェーフェー「フゥォオ……フゥオアア……(訳:マリ、よく頑張った……)」
マリ「……ありがと。でもあんたが歌ったらまたステージ全部吹っ飛んでたからね」
観客席が倒壊する音:ドゴォォォン!!! (借金が増えた)
恋は谷底に沈んだがライブは成功したのだった。
失恋ソングを歌いたかったが。全力でマリに止められるフェーフェーだった。