第3話 マリ・キュウリの関数には愛はない
浮遊都市ライブ後、3人の男から公開プロポーズを受けた歌姫オーヤン・フェーフェー。しかし破壊された設備の弁済は金貨で数億ルンツにのぼり、ステージの再建もままならない。そんな中、IQ300のマネージャー・マリは冷静だった。
魔界西部・荒野の宿屋2階の「ラプラス亭」簡易、芸能オフィスにて
彼女は静かに呟く。
「……身辺調査を開始します。誰が一番お金を出せるか。それが、すべてです」
「フゥオアア……(訳:え? 恋愛って気持ちじゃないの?)」
フェーフェーの問いは完全にスルーし、
マリは巨大な黒板と無数のホログラム帳票を展開していた。
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『恋愛損益分岐点の魔界関数式』
L = (P × R) - D + V
(L=恋愛有益値/P=貢物資産価値/R=資金流動性/D=損害補填予測/V=将来性評価)
「さて……この3人の“貢ぎ男”たち、誰が一番資金力があり、我々を黒字にできるのか。 愛? 信用? そんなもの、見積書に書けるなら信じますけど?」
マリの極秘調査メモ(外部協力:魔界公安・経済情報部)
対象①:火山王子・カエン=バルカン
財源:灼熱王国の王子。火山観光&温泉業で莫大な資産を持つ。
資金流動性:やや低い(現物資産が多く、金貨に換えると目減りする)
財務上の懸念:すぐ爆発するため保険料が高い。約20回婚約→全て溶解離婚。
フェーフェーへの貢物:マグマ真紅石指輪(市場換算:約3億ルンツ)
評価:即金力△/派手で目立つが燃費が悪い
→「付き合った瞬間に“家をプレゼント”してくれそうだが、3日後に家が噴火する可能性大」
対象②:重低音魔将軍グラムド=ハンマークロウ
財源:冥界軍音響部の将軍。軍予算から音響開発費が出ている。
資金流動性:高い(軍備費用として月間数百万ルンツの裁量あり)
財務上の懸念:恋愛相手に“軍属”として登録を求める傾向アリ
フェーフェーへの貢物:ペア同調器(機器再販価格:約5000ルンツ)
評価:安定型◎/結婚すると“音響訓練”が始まりそう
→「予算はあるが、全て“音の研究”に使う気マンマン。恋人というより合奏者扱い」
対象③:ゾンビ学者・ネクロ・ダ・ヴィリス
財源:アンデッド再生研究所の主任研究員。魔界厚労省から補助金が出る。
資金流動性:中(研究機材にほぼ全投資。副収入として“腰痛矯正座布団”販売中)
財務上の強み:発明品の座布団がバカ売れ中。1個500ルンツで月間2万個出荷
フェーフェーへの貢物:座布団(将来特許収入見込あり)+論文(名誉と権威)
評価:収益型〇/安定した未来性アリ/地味に稼ぐ天才タイプ
→「多くは語らず、毎月フェーフェー名義の口座に特許料が振り込まれそう」
最終的なマリの結論(計算結果)
最も金を出す男:ネクロ・ダ・ヴィリス(将来収益最大、リスク最小)
次点:グラムド=ハンマークロウ(予算持ちだが恋愛が軍事的)
最下位:カエン=バルカン(豪快だが、物理的に危ない)
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「フェーフェー……貴女が誰を選ぶかは自由です。ですが、私はマネージャーとして、このツアーを守らなくてはならない。 愛が赤字を生むなら、それは“戦争”より怖いものよ」
フェーフェーのつぶやき
「フゥ……フゥオアアアアア……(訳:なんか……全部恋じゃない気がしてきた……)」
恋愛に愛はない。敏腕マネージャーの分析結果だった。