第1話 ライブは瓦礫の中から
【登場人物】
オーヤン・フェーフェー
肩書:ゼロ部隊 広報兼・歌姫/人間・魔界最凶のデスボイスの持ち主
特徴:歌うだけで建造物が崩れる。だが本人は音痴である。
セリフ:「フゥオアアアアアアッ!!!!(訳:こんにちは!)」
かつて魔王城を一声で崩壊させた伝説の歌姫。
音痴ではあるが、その歌には治癒・破壊・混乱の三拍子が揃っている。
ツアーを通じて「本当の音楽」を探している。
マリ・キュウリ
肩書:IQ300の超絶マネージャー
特徴:スケジュールも補強材もすべて数式で管理。書類片手に敵を沈黙させる。
セリフ:「弁済……?また金貨、億単位ですね。……人生オワッター」
全てを「計算」で処理する冷静沈着な才女。
破壊された建物の修繕費とツアースケジュールの両立に悩む日々。
フェーフェーの破壊力に最も近い被害者でもある。
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魔界北部・浮遊都市〈ネビュルノ・スカイアーク〉
空に浮かぶ巨大な魔法都市。雲を突き抜ける塔の上――
そこが、本日のライブ会場だった。
「フゥオアアアアアアッ!!!!(訳:こんにちはーーーッッッ!!)」
その瞬間だった。
バチィンッ!!と音響スピーカーが火花を散らし、
メインステージの支柱がごうん、と傾き、
観客席の一部が崩落したにもかかわらず、
観客たちは叫んでいた。
「最高ーーーーッ!!」
「肩こりが抜けた!」
「腰が軽い!オレ、いま浮いてる!!」
フェーフェーが1曲歌うごとに、建物は1割ずつ崩れ、
音響スタッフは顔面蒼白で逃げ出した。
しかし、観客たちは叫びながら拍手を送り、地震計は記録を刻み続ける。
一方、舞台袖では
「……オワッター……補強材が200万ルンツ、瓦礫撤去で300万、演出機材破損で……億ですね……億単位……」
頭を抱えるのはマネージャー・マリ・キュウリ。
100枚のスケジュール表を空中で展開し、ひとつずつ自動で計算中。
「……仮に今後全会場で同じ破壊をした場合、破産まであと6会場……オワッター(確定)」
そのとき
バララララッ……!
ライブ後のアンコールも終わり、静まった舞台に、
ドシャアッ!と花束と一緒に3人の男たちが飛び込んできた。
「俺と結婚してくれええええええええ!!!!」
まず叫んだのは、火山のように燃える男、火山王子・カエン=バルカン。
全身が炎に包まれ、ステージの残りをさらに燃やす。
「君の歌は、火山の噴火と同じだ!俺の心を燃やした!
毎日一緒に火口の前で歌ってほしいッ!」
「我が冥界楽隊とデュエットを!いや、いっそ婚約して音楽軍を創ろう!」
次に名乗り出たのは、鎧のような音響装備を纏う男、重低音魔将軍・ラムド=ハンマークロウ
その声もまた地を揺らすが、フェーフェーの一節には完敗。
「君の声と我が重低音が交差したとき、音響の神が微笑んだ……ッ!」
「……うん、君の歌声には…面白い周波成分がある。 細胞修復、骨格調整、脳波安定……そして恋愛ホルモン分泌にも効果がある……たぶん。だから、その、交際してみないか?」
3人目は無表情で静かに近づいてきたゾンビ学者・ネクロ・ダ・ヴィリス
手には分厚い論文草稿、背中には測定機材。
観客「キャーーーーーーッッ!!」
魔界ネットニュース記者「今世紀最大の告白ラッシュ!歌姫、誰を選ぶ!?」
フェーフェー「フゥ、フゥオオ……フゥオアアアアアアアアアアアアッ!!!!(訳:結婚すれば弁済できるかもおおおおお!?)」
彼女のライブ後には建物が半壊し、地震計が反応し、観客の腰痛が治る。
音痴であることを自覚しているが、それでも「歌いたい」という想いだけで魔界全国ライブツアーを続けている。恋愛には疎く、情熱的なアプローチに弱い。ファン第一号は地震計。
この恋愛は成就できるのか?