第11話 眠り姫の育児放棄疑惑と魔界ワイドショー戦争
魔王ガルヴァの帰還と同時に、魔界の育児報道界が爆発した。
「魔界ママタレの頂点・ベルモット様、実は“寝てただけ”疑惑!?」
「これは“新型の育児放棄”か、“超越した愛”か――」
「魔王の妹という立場を利用した“子育て詐欺”?!」
魔界三大報道局―
・マスデーモン放送(MDB)
・サタニックニュースネットワーク(SNN)
・魔界週刊“悪意と真実”編集部(通称:アクシン)
が、魔王城前に詰めかけていた。
リポーターA(SNN):
「魔王様! 妹君ベルモット様は、一日に22時間寝ておられると伺いましたが、
それで育児が成立すると思っておられるのですか!?」
リポーターB(MDB):
「これは明確な育児放棄では!? 育児とは起きてするものではないのですか!?」
リポーターC:
「正直、“寝てるだけで育児界の顔”っておかしくないですか?」
【魔王城の玉座の間・緊急記者会見】
ガルヴァ魔王、額にうっすら汗をにじませながらマイクの前へ。
「我が妹ベルモット・ネクロデスは……確かに、よく眠る。
だがそれは、“夢を通じた深層育児”という、我々がまだ理解しきれていない愛のかたちだッ!」
(記者席どよめき)
「確かに!起きていない!だが!」
「彼女は夢の中で、マオウを見守っている!
寝ているからこそ、干渉せず、導く……これは“究極の信頼”ではないかッッ!!」
SNN記者「……でも、実際マオウくんの面倒見てるのは……そこの方たちですよね?」
さっちゃん「オイコラちょっとこっち来い」
記者「ひっ」
バクちゃん「さっちゃん、やりすぎ」
そんな中突如、ベルモットがもぞもぞと毛布の中から顔を出す。
「……ねえ……マスコミって、おいしいの……?」
記者一同「出たーーーーーー!!! 本物の寝ママ!!!!」
ベルモット「……育児? それって……寝たら勝ちだよね……(スー)」
5秒間起きて、また寝た。
ガルヴァ魔王「今のは!意識の高い比喩だ!寝ているのは、心を開いている証なのだ!!」
SNN記者「……強引すぎませんか?」
アクシン記者「これは逆にヤバくて面白いぞ。特集組もう」
その日の夜
マスコミの一部は“育児放棄疑惑”と騒ぎ立てるも、
一部では「夢育て最前線!感情労働ゼロの愛のかたち」と絶賛。
SNN「……魔界ママランキング、依然1位、ベルモット様」
MDB「“夢で育てる母”として殿堂入りの噂も」
アクシン「“育児は目を閉じてこそ光が見える”名言が話題」
ガルヴァ「……これもう、俺が何言っても意味ないんじゃないか?」
さっちゃん「もう育児じゃなくて、文化になってるわね」
バクちゃん「それでいいのか魔界」
だが、寝室の中で
マオウくんが母の寝顔を見ながら、静かに言った。
《ママは、夢の中でぼくを呼ぶ。それでいいんだよ。》
そしてベルモットは、寝言でこうつぶやいた。
「……また明日……育児するわ……夢の中で……zzz……」
こうして魔界は、“寝育て”という新たな思想の発信地となっていった。
そして、寝育てが魔界ではムーブメント、今年の流行語大賞の受賞となった。
さっちゃんが代理でトロフィーを受け取りました。