第9話 バクちゃんの夢魔たちの同窓会
「バクちゃんってさ……昔、何してたの?」
そんな軽い問いかけが、事件の始まりだった。
ある日届いた一枚の黒い手紙。封蝋には「夢獣連盟」の刻印。
さっちゃん「“夢魔同窓会 in 地獄タワーラウンジ”……?」
バクちゃん「おいおい、まじかよ、こんな時に」
バクちゃんは頭を抱えながら呟いた。
「アイツも来るな……“ルジェ・ララ夢夢”」
「……誰それ?」
「元カノ(夢)だ」
さっちゃん「リアルにちょっとむかついたわ今!!!!」
【地獄タワーラウンジ・夢魔たちの同窓会】
そこには、百年ぶりに集まった夢魔たちがいた。
【ドローム・マカロン】:羊の姿をした眠気誘導専門の上級夢魔
【アバラン・レム】:永遠の悪夢を見せるメンズ双子の夢魔、夢見心地で地味に口が軽い
【ルジェ・ララ夢夢】:夢魔界のセクシークイーン。蒼いのスリットドレスで登場
ルジェ「まあバク……久しぶりね?まだあの女王様ロリっ子と一緒なの?」
さっちゃん「誰が女王様ロリっ子よ!!!!(図星でちょっと照れる)」
夢夢がバクちゃんの頬を指でなぞる。
「昔はあんなに甘えてきたのに……夢の中で『絶対にベルモット様だけは起こすな』なんて契約結ぶなんて、どういう風の吹き回し?」
さっちゃん「……ベルモット、起こさせない契約?」
バクちゃん「……ああ」
それは数年前
“最も人間を癒せないダメ夢魔”として夢界で干されかけていたバクちゃん。
「夢なんて、誰も見たくないってさ。俺の時代は終わったんだよ……」
そんなバクちゃんの前に、眠り姫ベルモットが現れた。
そのとき彼女は、寝ながらこう言った。
「……ねえ、あなた……私の夢、守って……一生寝ていたいの……」
初めて見た、“誰よりも深く眠ろうとする者”。
バクちゃんは思った。
(……この人のためなら、夢を喰っても、守っても、何でもやれる)
その日から、バクちゃんは“ベルモット専門の夢番人”として契約を結んだのだった。
ラウンジに戻る。
ルジェ「ま、私の夢にはもう来ないってことね。ふふ、つまらないオトコになったわね」
さっちゃん(すごく……イラっときたわ今)
だがそのとき!
カートに乗ったまま寝ていたベルモットがスッ……と片目を開けた。
「……バクちゃん……私の夢、食べた?」
「いやまだ寝ててください!タイミングぅぅぅ!!」
夢魔たちが一斉に沈黙する中
ベルモットは、ふにゃっと笑ってまた寝た。
「……バクちゃんの夢は……甘くて……お腹いっぱい……」
ルジェ「……なによそれ……甘やかされすぎでしょ」
同窓会、終了。
さっちゃんは帰り道、ぽつりと呟いた。
「……ま、元カノとか別にどうでもいいし?」
バクちゃん「ん?」
「ただ……あんたがその契約、勝手にやってたのだけムカついたわね」
「……悪い。でも、俺にとっては……あの契約が、俺の“目覚め”だったんだ」
さっちゃんはふっと笑って、ベルモットの寝ているベットのカートを押した。
「……まったくもう、眠れる爆弾抱えて……しょうがない男ね」
その後、夢魔たちの間ではこう呼ばれた。
“寝ながら男を落とす女”ベルモット・ネクロデス。
そしてバクちゃんは今夜も、
ベルモットの枕元で、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
「……あんたの夢は、俺だけの仕事だからな。」