第6話 さっちゃん、ママ疑惑 『寝言は寝て言え!』(寝てるけど!)
最近のマオウくんは、魔界の「ひよこ保育園・地獄分園」に通っている。
地獄火の温水プールに、鬼教官の体操、朝のごあいさつは「我らが冥王に感謝を」など、非常に魔界らしいカリキュラムだ。
そんな中
朝。門の前に、毎日現れるピンクワンピの小さな女性。
ランドセルを背負い、角をぴょこぴょこと揺らしながら、ベビー魔王をふわっと浮かせて抱える。
「行くわよマオウ、今日も愉快な地獄を生き抜くわよ」
送り迎え、完璧。
お弁当、完璧。
忘れ物チェック、完璧。
寝癖まで魔力で整える徹底ぶり。
当然
保育士「……あの方が、ママさんですか?」
別の保護者「えっ!? てっきり年の離れた姉かと……!」
通りすがりの悪魔「“姐さん”って呼ばれてるけど“母親の姐さん”の略って聞いたぞ……」
気がつけば、さっちゃんが“ママ”扱いされていた。
「ちょっと待ちなさいよおおおおおおお!!!!」
さっちゃんが叫ぶ。
今日は久しぶりの家事オフ。マオウくんはバクちゃんと昼寝中、ベルモットは当然爆睡中。
「なんであたしがママになってんのよ!!?」
バクちゃんがアイスティーを飲みながら答える。
「いや、だってさ? やってること完全に母親じゃん。
送り迎え・弁当・しつけ・着替え、あと“極道教育”も」
「極道は関係ないでしょ!? それは“筋を通すことの大切さ”を教えてるだけ!」
そこにマオウくんが浮かびながら脳内テレパシー。
《姐さんって呼んでたけど……正直“母”みを感じてた。オムツ替えでケツ拭かれた時、心が震えた……》
「黙れバブ!」
その夜。
さっちゃんはベルモットの布団をバサァとめくって問い詰めた。
「ちょっと眠り姫、起きなさいよ。教育はあんたの役目でしょ!」
ベルモット、寝たままうっすら笑顔。
「……うん……さっちゃん、ママ……」
「寝言は寝て言え!!!(っていうか寝てるか!!!)」
バクちゃんが指を立てる。
「いや、あれ実は魔王家の“王族認定”のひとつなんだよね。 夢の中で“ママ”と呼ばれた者は、乳母認定。 古くからの王家のしきたりらしいよ」
「そんなのあるかァァァ!!!」
「あるんだよォォォ!!!」
さっちゃんはため息をつきながら、保育園の提出プリントを書いていた。
「保護者欄:ベルモット・ネクロデス
緊急連絡先:……さっちゃん
連絡帳:……さっちゃん記入
食事の好き嫌い:さっちゃんが管理」
マオウくんは脳内でこうつぶやいた。
《……姐さん。俺が魔王になったら、“乳母上”って呼ぶよ》
「やめろやあああああああ!!!」
そんなこんなで、ベルモットが眠ってる間に、さっちゃんの“育児キャリア”はどんどん上がっていく。
今日も寝息とツッコミの鳴り響く、平和な魔王家であった。