第5話 子どもたちの夜泣き VS 悪夢の番人
ここは魔界。
静かなはずの夜に、今、子どもたちの泣き声が響き渡っていた。
「うぎゃあああああ!」
「ひいいい!」
「こわいいいぃぃ!」
夜泣き、夜泣き、夜泣き。
その理由はただひとつ。
魔界で、今、“悪夢病”が流行していた。
「ったく、こっちは寝ようってのによお!!!」
と隣の寝室でうるさそうに寝返りを打つベルモットをよそに――
バクちゃんは真剣だった。
「ついに来たか……悪夢病。これは……夢の魔物である俺の出番だぜ」
さっちゃんはピンクのワンピのまま魔法陣を描きながら訊く。
「そもそも、悪夢病ってなによ?」
「魔界の空気が不安定になると、悪夢が集合意識として生まれてくる。
その悪夢が子どもたちに感染して、脳内で“ナマ”の悪夢を見るようになる……
しかもこれ、見てる本人が泣けば泣くほど、悪夢が強くなるんだ」
「うわ、めんどくさ!!」
バクちゃんはベビーサタンのマオウくんをチラリと見た。
「さすがに、あいつも夜中ずっと悪夢にビビってた。こりゃもう、夢の中で対処するしかねぇ」
夢の中へ夢の中へ行ってみたいと思いませんか~うふふふ
{夢の中}_____________________
《夢界:悪夢汚染ゾーン》
黒い霧、ねじ曲がったぬいぐるみ、涙で濡れたベッドの幻影。
そこに、夢の中をパトロールする影が一つ
「出てこい、悪夢ども……!」
バクちゃんが姿を現した瞬間、空気が震えた。
「ワレワレハ悪イ夢ヲ見サセマス……」
不気味なノイズとともに、黒くうごめく化け物たちが現れる。
片目のクマ、針の歯車、そして“怒るママの巨大影”。
「おっと、それはトラウマ系の夢だな……」
バクちゃんの目が鋭く光る。
「だがな、俺は夢を喰う魔物。悪夢は、不味いんだよ!!!」
口を大きく裂くと、バクちゃんは一気に敵へ飛び込む!
「喰って!喰って!!喰いまくる!!!」
悪夢を丸ごと吸い込みながら、黒いモヤを一つ一つ浄化していく。
ピシュウウウウッ!!
「ぐわああ!記憶喪失系悪夢溶けたああ!」
「え、やばい!寝小便トラウマが焼かれる。キャーー!」
最後に現れたのは、巨大な影。
「ワレハ夢ノ王 スベテノ夜泣キノ元凶ナリ……」
「まとめて食ってやるよ……!」
バクちゃんの体が光り出す。
背後には
眠っているはずのベルモットの魔力の残滓が、ふわりと浮いていた。
「……すや……夢の守り人……お願い……バクちゃん……」
「任せとけ、眠り姫……!」
バクちゃんの額に浮かび上がる紋章
“眠り姫ベルモット公認・夢の番人”
「夢魔爆喰・スイートナイトメアシュレッダー!!」
光の渦が悪夢の王を飲み込み、空が晴れた。
現実へ現実へ戻りたくないけど現実へ~ウフフ
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翌朝。
子どもたちは全員、ぐっすり笑顔で起床。
マオウくんもふらふらと起きてきて、脳内で呟いた。
テレバシー
《よく寝れたぜ……姐さん、あいつすげえわ……》
「でしょ?」
さっちゃんはコーヒーを啜りながらニヤリ。
一方バクちゃんは……
「……く、くるしい……夢、食べすぎた……胃がもたれる……」
そのままベッドでうめきながら転がっていた。
「まさか夢に満腹ってあるの……?」
そしてその夜
「うう……寝たいのに……満腹で寝れねえ……」
そう、バクちゃんはまさかの**“寝不足”ではなく“寝多可”状態**に突入してしまった。
夢魔にとっての過食――それは、一睡もできない地獄である。
「睡眠できん、悪夢より不味かった……」
一人、星を見上げて泣いた夢の番人。
そんなバクちゃんをよそに、ベルモットは今日も……
「……夢のゼリーのプール……バクちゃん……全部食べた……」
と、夢の中で呪詛を吐きながら爆睡していた。