第4話 眠り姫の夢育児アドバイス
場所:ベルモット・ネクロデス邸。
今日も世界のどこかでは戦争が起こり、魔界では不穏な気配が漂い、人間界ではバクちゃんの保育士不合格通知が届いていた。
だが、ここだけは
しん……と、静か。
ふかふかの暗黒羽毛布団の中で、ベルモットは今日もすやすや熟睡中。
バクちゃんは座布団の上で胡坐をかき、さっちゃんはアイスコーヒー片手にふんぞり返っていた。
「ねぇ、バクちゃん。あたし、最近ちょっと悩んでるんだけど」
「ん?マオウ君の夜泣きがまた始まったとか?」
「違うわよ。このままあたしたちが育児代行し続けてていいのかって話よ。
この家の名義上の“ママ”はあのクソ眠り姫なんだから、教育方針くらい聞いとくべきじゃない?」
「……無理じゃね? だって寝てるし。聞いても“……アイスとけた……”とかしか返ってこないよ?」
「でも夢の中ならいけるかも。」
というわけで、バクちゃんが夢魔としての本領を発揮し、
さっちゃんを“ベルモットの夢”に引きずり込む作戦が決行された。
夢の中へ夢の中へ行ってみたいと思いませんか~うふふふ
{夢の中}_____________________
「……え、これが……?」
夢の世界はふわふわとした空中庭園のような場所。巨大なクッションの上で、ベルモットが寝たまま紅茶を飲んでいた。
「うふふ……さっちゃん……夢に来たの……?アイス……?」
「やべぇ、喋ってる!寝ながら普通に喋ってる!」
夢の中のベルモットは微笑んだまま、夢の紅茶を飲み干し、静かに言った。
「子育てに大事なのは……“間”よ……」
「は?ま?“あいだ”ってなに?何の?」
「“寝る時間”と“構う時間”の“間”……
“褒める”と“叱る”の“間”……
“愛情”と“放任”の“間”……」
「急に名言っぽいこと言い出したな!?どうしたお前寝ながら人格変わってんじゃん!!」
夢の中のベルモットは続ける。
「でもね……一番大事なのは……子どもが“寝ている大人を見て育つ”ってこと……」
「……は?つまり?」
「寝ることの大切さを、わたしは背中で……いや、背中向けたままで寝て教えてるのよ……ふふ……すや……」
そのまま、ベルモットは夢の中で再び深い眠りに落ちていった。
夢の空間がゆっくりと崩れていく。
バクちゃんがぽつりと呟いた。
「……あれ、もしかしてすごい育児論なのか……?」
「いや……寝ながら教えるのが教育って言い張るのはやべえだろ……でもちょっと納得しかけた自分がいるのが悔しい……」
現実へ現実へ戻りたくないけど現実へ~ウフフ
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現実に戻ると、マオウくんがさっちゃんの袖をつまんでいた。
◇テレバシー(脳に直接話しかける)◇
《姐さん。さっきの話聞いて、今日の姐さん、ちょっと“母親み”あったぜ……》
「やめろ気色悪い言い方すんな」
バクちゃんはホワイトボードに「ベルモット式育児理論」と書きはじめた。
・基本は寝る
・たまに夢で助言
・とにかく寝る
・だいたい寝れば何とかなる
さっちゃんはそれを見て、ため息をついた。
「……まあ、寝てるわりには、案外すごいこと言ってたのかもね」
そしてそのころ
ベルモットは布団の中で、にこにこと寝ながら言った。
「……みんなが動いてくれるから……あたし……一生寝てられる……働いたら負け最高……」
眠り姫、アドバイスはしたけど、育児労働のやる気はゼロ。
 




