第3話 バクちゃん保育士試験に落ちる(たぶん)
場所は、人間界。とある地方都市の福祉センター。
今日は年に一度の保育士資格筆記試験の日。
「……ほんとに受けるんですか、バクちゃん?」
スーツにランドセルという異常な格好で受付に現れたさっちゃんが言う。
その隣には、ふわふわの白黒抱き枕型魔物
そう、バクちゃん。帽子だけはなぜか受験用の“就活風”キャップでバッチリ決めていた。
「受けるさ……!マオウくんの育児を名乗る以上、資格はいる!」
「いやアンタ育児っていうか、監視係でしょ……。
それに、そもそも人間界の国家資格って、魔物いけんの?」
「書類では“種族:その他”にしておいた」
「もっとやべえよそれ」
周囲の受験者がざわつく中、バクちゃんは真剣な面持ちで試験室へ。
すると、試験管が眉をひそめながら言った。
「えーと……バク・チャンさん、ですね。……すみません、一応確認ですが……あなたは……動物ですか?」
バクちゃんは堂々と答える。
「いいえ。淫夢の魔物です。夢を喰う魔物でございます」
静まり返る試験会場。
後方で、さっちゃんの机がガタン!と鳴った。
「やめろォォォォその表現やめろォォォォ!!! “淫夢”って言うと人間界で別の意味になるからああああ!!!」
試験管が咳払いをしてメモを取る。
「えー……“夢に関連する……非・動物型存在”と……。では、お名前に“ちゃん”がついているのは?」
「本名です。バク・チャンです。“バクちゃん”までが種族名です」
「マジかよ!!!」
さっちゃんは半笑いになりながら頭を抱えた。
「てか、それ試験に受かる気あるの!?」
しかしバクちゃんは真剣だ。
「俺は真面目にやるさ。たとえ眠らせ系魔法が筆記試験に使えなくてもな」
「それ使ったら即逮捕な!!!」
こうして、バクちゃんの保育士試験チャレンジが始まった。
試験開始!
30分後
バクちゃんは問題用紙を開いた瞬間に眠りに落ちた。
それを見た他の受験者も、もれなく全員居眠り。
全体的に夢オチとなったこの試験会場にて、
試験管は天井を見上げながらつぶやいた。
「……あれが“淫夢の魔物”か。恐るべし……」
帰り道。
「まあ……落ちた、かな?」
「かな?じゃねえよ確定だよ!!ってか寝かせるな試験会場の人間を!!!」
夢に全力のバクちゃん。
現実に全力でツッコミを入れるさっちゃん。
その頃
眠り姫ベルモットはというと
「……保育士……おねえさん……パンダの着ぐるみ……ふふ……」
と寝言を言いながら今日も熟睡していた。