第2話 超能力ベビー ダイ・マオウくん
ダイ・マオウ君
銀髪くるくる・赤い目・いつもぴくぴく動く小さな角。
ツノからピリピリとした魔力が漏れている。
おしゃぶり付きローブ、よだれかけに「魔王」と刺繍されている。
移動はほぼ浮遊(床をハイハイしない)。
生まれながらにして、異常な魔力と超能力を持つ。
■サイコキネシス(念動力)
玩具・家具・大人を無造作に浮かせてぶん回す。
■テレパシー
言葉を話す前から、頭に直接話しかけてくる(声はめちゃくちゃ落ち着いてる)。
■睡眠同調
ベルモットが寝ると強制的に周囲の人間も眠くなる。
逆にマオウ君が泣くと、ベルモットの眠りが浅くなり、“寝言で攻撃魔法”が出ることも。
■召喚魔術(偶発的)
くしゃみひとつで低級悪魔を召喚してしまうことがある。
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魔界・ベルモットの寝室。今日も姫は爆睡中。だが、その横で
「うおおおおおおっ!!また浮いたあああああああ!!」
バクちゃんが天井に張り付いていた。見えない力によってぐるんぐるんと回転中。
その下で、ふよふよと浮かぶひとりの赤ちゃん。
銀髪、赤い目、ちっちゃなツノ、口元にはミルク垂れ。
しかし目は
完全に悟っていた。
「……おい、テメー。またやったなマオウ……」
現れたのは、さっちゃん。今日も角付きツインテ・ピンクのワンピース・ランドセル装備。
だがその目はギラリと鋭い。
「いい加減にしな、マオウくん。そろそろ“しつけ”ってもんを覚えな」
マオウ君は無言のまま、じーっとさっちゃんを見上げた。
次の瞬間
ガタン!
さっちゃんのランドセルが勝手に浮いた!
「んだと……? テメー、姐さんの背中を狙ったかァ?」
さっちゃんの声が低くなる。
マオウくん、まだ言葉を話せない。
だが、その頭の中に、ズン……と響く低い声が流れ込んできた。
◇テレパシー(頭に直接話しかけてくる)◇
《……姐さんの背中が無防備だったから、つい》
《礼儀がなってなくて……すまねぇ》
その瞬間、さっちゃんの表情がピクリと動いた。
「……なんで、アンタ、あたしのこと“姐さん”呼びしてんのよ」
マオウくん、ふらりと浮遊し、棚の上の盃をテレキネシスでひとつ持ち上げる。
《姐さん、忘れたのかい? あの日、夢の中でおれらは》
■回想。
数日前、ベルモットの夢の中で。
さっちゃんとマオウくんが、ちゃぶ台の前で正座していた。
「いいかマオウ、魔界で生きるにはスジってもんがあんの。スジ通さなきゃ誰もついてこねえ」
《スジ……姐さん、それが“任侠”ってやつかい?》
「そうだよ。それさえ忘れなきゃ、どんなに泣こうが屁ここうが一人前だ」
二人は夢の中で盃を交わしていた。魔界式の“義兄弟契約”である。
《だからオレァ、姐さんにゃ逆らえねぇ。手加減してるだけなんだぜ?》
現実に戻る。
「……マジで交わしてたの?盃」
さっちゃんは額を押さえながらため息をつく。
「てか、誰が任侠教育したのよ……夢の中で。……ああ、あの眠り姫か。ろくでもないわ」
そのとき、ベルモットが寝言をつぶやいた。
「……夢にね……極道のおじさまがね……かわいくて……」
「オメーか!!!」
バクちゃんがようやく床に降り立ったが、頭から布団をかぶって倒れた。
「もうダメだ……この家、常識が機能してねえ……」
しかし、マオウくんはにっこりと微笑んだ。
ふわりと宙を舞い、さっちゃんの肩にちょこんと乗り、
テレパシーで脳内でひと言だけ
《姐さん、次は組のしきたり、教えてくれよな》
「……いいよ。まずはオムツ替えを“耐えて”からな。そこからが任侠の一歩よ、バブ野郎」
今日もベルモット家は寝息と超能力と任侠精神が渦巻く。
「オカシな家だよ。ベルモット家」さっちゃんがツッコんだ。