第1話 眠り姫ベルモット 今日も寝る
“魔界の眠り姫”ベルモット・ネクロデス。
魔王の妹でありながら、1日22時間寝ている超怠惰型美少女。
彼女の唯一の行動時間は「食事・お風呂・夢の話」だけ。しかもその大半も寝ながらこなす。
そんなベルモットが“子育てママ”?
というのは大間違い。
実際は、ベルモットの親友であり、見た目小学生・中身50歳の超有能使い魔少女「さっちゃん」と、
ベルモットの夢を管理し続けている夢食いバクちゃんが、
勝手に周囲から「ママは頑張っている。」と誤解されてしまったことが始まり。
寝たきりの姫、毒舌の女王様、ぬいぐるみのバグちゃん育児代行。
魔界の子どもたちやトラブルに巻き込まれながら、
3人の友情と混乱とツッコミだらけの日常が始まる!
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【登場人物】
ベルモット・ネクロデス
魔王ガルヴァの妹。「魔界の眠り姫」
1日22時間熟睡中。残り2時間も寝ぼけてる。
ゆるふわ美少女だが、まったく動かない。
バクちゃん
夢を食べる抱き枕型魔物。ベルモットの夢を管理中。
面倒見がよく、もはや介護者&保護者。
ベルモットの代わりに「育児係」扱いされている。
さっちゃん
年齢50歳、見た目小学生。ツインテ・角・ランドセル。
ベルモットの親友であり、使い魔界の元締め。
女王様気質&毒舌だが、圧倒的な仕事能力で回りを動かす天才。
子育ての依頼や保育指導もバンバン受けてくる。
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魔界の片隅にある、静かで暗くてふかふかの寝室。
ベッドは豪奢で、カーテンは昼夜を問わず閉じられ、ふんわりした魔力の枕と夢の羽毛布団が一人の少女を包み込んでいた。
その名は
「……ベルモット・ネクロデス様は、現在も熟睡中でございます」
ぬいぐるみのような見た目のバクちゃんが、寝室の前に集まった記者団にぺこりと頭を下げる。魔界通信、魔界ママ雑誌「デビままっ!」、さらには人間界のSNSインフルエンサー系のカメラまでが殺到していた。
「寝てるだけで育児してるって本当ですかー!?」
「ベルモット様の“寝ながらオムツ替え”って伝説は本物!?」
「ママタレ転向ってホントなんですか!!?」
バクちゃんはため息をひとつ。
「繰り返します。ベルモット様は育児などしておりません。寝ているだけです。今日も、22時間睡眠モード継続中です」
そのとき背後の寝室から、ぴくりと毛布が動いた。
「おっ!?ついに起きるか!?」とざわつく報道陣。
が、
「……ムニャ……アイス……とける……やだ……」
以上。
ベルモット、寝返りを打っただけだった。
記者たちが落胆の声を漏らす中、背後の扉がバタン!と開かれ、登場したのは…
「お前ら、うるさいのよ。寝姫が起きたらどーすんのよバカども」
ベビーサタンのさっちゃんである。
ツインテの角、ピンクのワンピ、ランドセル、目はキレ気味。そして声は小学生。だが中身は50歳の魔界の名だたる使い魔長。
「ベルモットが子育てしてる?ハァ?誰が流したのそんな悪質デマ。あの眠り姫は2時間だけ起きるのよ。」
「でも……昨日、夢の中で育児のアドバイスを受けたって魔界の保育士が――」
「それ、バクの夢管理のせい。本人の意思じゃないから」
「でもでも、赤ちゃんの夜泣きに“寝ながら手を伸ばしてヨシヨシしてた”って」
「たまたま寝返りだっての!ただの筋反射!」
バクちゃんが横からそっと補足する。
「我々が保育補助をしていたところ、ベルモット様の夢がうっかり連動して魔力で慰めたような形に……まあ、誤解が生まれても仕方ないといえば、仕方ないのですが」
さっちゃんは鼻で笑った。
「ま、いっか。どうせ眠り姫は起きない。あたしたちで片付けとこ」
そう言ってさっちゃんが両手をパチンと叩くと、記者たちは魔法陣に飲み込まれ、次元の彼方へと帰されていった。
「また明日取材に来まーす!」という明るい声が響く中、静寂が戻る。
バクちゃんがそっと寝室の扉を開け、ふわりとした毛布を整える。
「今日も……よく眠ってますね、ベルモット様」
さっちゃんも肩をすくめた。
「ま、私たちが動いてる限り、あいつが“育児タレント”になったままでもいーんじゃない?なにもしないのに人気だけ出るとか、ベルモットらしいし」
ベルモットはその言葉を聞いていたのかいなかったのか、ふにゃりと笑みを浮かべ、すやすやと眠っていた。
ママ?そんな役割、やってない。
けれど、今日もベルモットは育児ママ扱いで、今日も爆睡中。