第12話 決戦!魔導鉄塊バクザン、最後の咆哮!
99階・天空の間に、破裂するような銃声と爆発音が響き渡っていた。
紫のスモークが残る回廊の奥
テロリストたちが次々と制圧され、拘束され、
人質たちが無傷で解放されていく。
「楓さん、次の扉、開けましたわ! 人質、は残りあと12名です!」
「こっちは任せて。こそこそ動くの、慣れてるから」
竜騎士ミッシェルは盾と槍を携えて、正面の敵を突破し、
楓は壁や天井裏を伝って、隠された捕縛室の鍵を次々と外していた。
そして、その中心。
薄暗いホールの中央、
ただ一人、まっすぐに歩む者がいた。
お雪。
無言で、静かに。
鋼の巨躯が待ち構える99階の天空の間へと進み出る。
「貴様……」
魔導サイボーグ・バクザンは、
機械と魔力の融合によって超再生する鋼の肉体を得ていた。
「ぬははははははは……!! もはや貴様の斬撃など、蚊に刺されたも同然よッ!!
かつては一度、貴様に屈したこのバクザン……
だが今は違うッ!! わしはこの身で憎き貴様を斬り伏せるのだ!!」
だが、その言葉にお雪は、眉一つ動かさない。
――スッ
音もなく抜き払われたのは、名刀 正宗。
その瞬間、バクザンの両肩から展開される魔導鋼シールド。
地面を揺るがすほどの一歩で、お雪へと迫る!
「さあ来い、剣士ッ!! わしのこの装甲、貴様に越えられるかあぁあああッ!!」
バクザンの鉄拳が振り下ろされる!
お雪は飛び退きながら切り結ぶが
カキィィィン!!
「……通らぬ……」
バクザンが不敵に笑う。
「ふははははッ! 言ったであろうが、貴様の“正義”も“剣”も通らぬわッ!!
この鋼の肉体の前ではなァあああああ!!」
お雪の剣が弾かれ、床に転がる。
ミッシェルが目を見開く。「お雪さん!」
楓が呻く。「まずい……! 武器が通らないなんて……!」
だがお雪は動じなかった。
拾い上げた正宗を、ゆっくりと納め直す。
そして、両目を閉じる。
静寂。
鼓動さえも聞こえない、完璧な無音。
「……父上、今こそ」
幼き日、
ただ一度だけ父が見せてくれた“あの型”。
剣を、心を、気を、全てを澄ませる技。
お雪は足をすっと引き、
ただ一歩前へと踏み出した。
そして
「明鏡止水 一閃。」
バクザンが反応する間もなく、
その斬撃は風を纏い、光を裂き、空間を真っ二つに断ち割った。
ギィイイイイイン!!
硬質な音を残して、バクザンの装甲に“亀裂”が入る。
「な、なにィッ……!? 貴様、その剣で……わしの装甲に……ッ!?」
再び、一歩。
お雪が踏み込むたびに、その身から静謐な“気”が溢れ出す。
二歩目で肩が割れ、
三歩目で胸部コアに切っ先が届く。
「バクザン 成敗!」
お雪の声は、まるで風そのものだった。
次の瞬間、爆発にも似た魔力の逆流が起き、
バクザンのコアが断ち切られる。
「がああああああああああッ……!!! なぜだああああああああッ!!」
そして崩れ落ちる鋼の巨体。
沈黙が訪れる。
ミッシェルが駆け寄り、
「お見事ですわ……お雪さん」
と微笑みかける。
楓が口元をゆがめて笑う。
「なんだ……やっぱアンタ、強いわ。無言のくせに、かっこよすぎんのよ……」
お雪は静かに目を閉じた。
「……剣は、裁きではなく、守るためにある。父はそう教えてくれた」
そして人質は全員、無事解放。
大エイドの空に、ようやく静寂と安堵が戻った。