第10話 大エイドの人質大事件 (オオハード2)
巨大円筒の建造物 大エイド スカイ釣りタワー。
その99階、高級展望ラウンジ「天空の間」が、テロリストたちによって占拠された。
人質はおよそ40人。政治家、商人、芸術家、庶民さまざまな立場の人々が拘束され、タワー全体が緊張と絶望に包まれている。
そしてその中心にいるのは……あの男だった。
「ぐぉぉおおおおっははははははは!!」
天井から響くような、機械仕掛けの笑い声。
かつて雪国の代官でありながら、お雪に裁かれた悪政の象徴
今は鋼の体を持つ魔導サイボーグ・バクザンが、満身の狂気を全身から放っていた。
「今日こそゼロの部隊のクソどもを根絶やしにしてやる!この人質もろともになあぁぁあッ!!」
そこへ駆けつける、特別強襲部隊ゼロ部隊の3人。
竜騎士ミッシェル、雪国の剣士お雪、くノ一楓。
高層外壁に滑り込みながら、3人は無線を通じて作戦会議を始めていた。
「99階に着地するのは危険すぎますわね。周囲にスナイパー、魔導感知網もありますわ」
「中階層から登る? でも警報を鳴らされたら人質が危ない……」
「下手に動けば、敵が人質ごとタワーの支柱を爆破しかねないわ。慎重にいく」
だがそのときだった。ビルの壁面に映る紫の残光
どこかで見たようなシルエットが、夜風にひるがえる紫とともに降り立った。
「お困りのようね。お三方」
振り返る3人の視線の先に現れたのは
紫のレオタードにケープ、流れる銀髪、顔の半分を仮面で隠した女怪盗。
「ムラサキ……!?」
お雪が眉をひそめる。
「お久しぶりね。今回の仕事は、そうね……正義の手伝いってとこかしら?」
ミッシェルがやや不機嫌そうに腕を組む。
「前回は逃しましたけど、今度は捕まえて差し上げますわよ」
「どうぞご自由に。でもその前に少しあな達の役にたたせてちょうだい」
ミス・ミミは、目の奥にわずかに哀しみを灯したまま微笑む。
「私は“目立つ”のが得意なの。派手に動き回れば、あのバクザンとその手下の部下たちの注意を私に引きつけられる。あなたたちはその隙に人質を救って、そしてバクザンを止めなさい」
楓が軽く目を見開く。
「アンタ……あれだけの悪事を働いておいて、命張って囮になるってワケ? 正気?」
「いいじゃない、忍者さん。今の私は“ヒーロー気取り”なのよ。いつも盗んでばかりじゃ、胸が痛むの」
お雪は黙って一歩前に出る。
その瞳には、ほんのわずかに彼女を信じる色が灯っていた。
「あなたを信じる……その時間、無駄にはしない」
ミミはウインクして、天井へロープを投げると
くるりと宙を舞いながら、タワーの上層部へと滑空していった。
その背には、かすかに言葉がこだまする。
「さあ、華麗な乱入を始めましょうか。派手な盗みは得意よ命と、時間を盗むのもね」
そして、作戦は動き出す
ムラサキ=ミミの囮作戦、ゼロ特殊急襲部隊の99階潜入作戦が始まる。
目の前に巨大円筒の建造物 大エイド スカイ釣りタワー。
大エイドの空に、静かな緊張が走っていた。