第9話 悪代官バクザンの復活と大エイドの危機
闇に蠢く鉄の音、魔導炉の心臓が不気味な脈動を刻む。
ゆっくりと、重い鉄の扉が軋み、現れたのは
かつて、お雪の手によって斬られ、世を去ったはずの悪代官・バクザン。
だが今、彼は魔導と鋼の力によって、サイボーグとして甦っていた。
かつての醜く肥え太った身体は、今や黒金の鋼鉄で覆われ、
片目には魔導レンズ、口元は半ば焼け落ちたままの歪んだ笑み。
人でも鬼でもなく、まさに“怨念の塊”としてそこに立っていた。
そしてその歯噛みのような声は、真っ先にこう呟いた。
「……お雪……ッ」
「わしの人生は、貴様によってすべて壊されたのじゃ……」
呻くように、低く、重く、呪詛のような言葉が吐き出される。
「わしがどれほど苦労して、あの地位にまで登り詰めたか、知っておるか……?
寒村で生まれ、泥水をすすって生きてきたわしが、
やっとのことで代官の座に就き、女も金も思いのまま。ようやく“勝ち組”になれたというのに……」
「それを、だ……」
目がぎらつく。執念の光。
「貴様が現れ、たった一太刀で、わしのすべてを奪いやがったッッ!!」
お雪が彼を斬ったのは数年前。
民の声に耳を塞ぎ、賄賂と拷問、重税で人々を虐げていた男
それがバクザンだった。
だが本人にとって、それは“正当な支配”だったのだ。
「村の連中が飢えようが死のうが、わしの知ったことではなかったわッ!
何故ならそれが“支配する者”の特権だからじゃァッ!!」
「それを、“正義”だか“義”だか知らんが、貴様は突然現れて、斬り捨てた……何の裁きもなく、いきなりじゃッ!!」
「あの日の雪の冷たさを、わしは今でも忘れぬ……ッ!」
歯を食いしばりながら、震えるように叫ぶ。
「民どもが喜びに沸いているのを、屋敷の瓦礫の中から、わしは見ていた……!
わしの首が晒され、子どもたちが雪玉を投げて笑っていた……!
何が正義だ……!? 貴様のやったことは、わしを地獄に突き落としただけだ!!」
「恥だ!! すべてを失ったわしの、この惨めさが分かるか!?屋敷も金も女も、誇りも、名も、なにもかも奪われた……」
魔導サイボーグの身体の奥で、魔核炉が赤く燃え上がる。
「だからわしは、地の底から這い上がったのじゃ。鋼の体を得て、魔導を得て、復讐のためだけにッ!!」
「お雪よ……」
その名を、まるで呪いのように繰り返す。
「貴様だけは、絶対に許さぬッッ!!今度は、貴様の“正義”とやらを、この手でズタズタに切り裂いてやる……!貴様が守ろうとするものをすべて焼き払い、泣き叫ばせ、その冷たい面を、地に這わせてやるのじゃああああああああああッ!!」
バクザンの狂気と怨念が、大エイドに迫る。
ミッシェル、お雪、楓の3人は、その歪んだ“逆恨み”と対峙することになる。