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【45万2千PV突破 ! 全話 完結】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『竜騎士のミッシェル姫と雪国の剣士お雪の天罰 成敗!時々 くノ一楓(かえで)』
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第5話 ツユメとの死闘 短冊の願い。

風ノ里・本堂跡。


かつて修練の場だった場所は、瓦礫と灰に埋もれていた。

柱は焼け落ち、床には剣戟の跡。

ただ一つ、中央の石碑だけが原形を留めている。


その前に、女が立っていた。


紫の仮面。金の瞳。

かつて楓の姉のような存在だった、ツユメ。


「……あんたは来るって思ってたよ」


灰の中に響く声は、懐かしいのに、冷たい。


楓かつてと抜忍と呼ばれた少女は、口を開かず、ただ睨んでいた。


「なんでこんなことを……里のみんなを……!」


しばらくの沈黙ののち、しぼり出すように言葉を放った。


ツユメは、笑わなかった。


「……私たちは、何のために忍術を学んだ?」


「守るため。仲間と、国と、人のために」


「そう。そう、だったね……昔は、そう信じてた」


その言葉の奥に、深い痛みがにじんでいた。


ツユメの手が、ゆっくりと仮面を外す。


その顔は、いつか楓の誕生日にケーキを焼いてくれた笑顔と、変わらない。


だけど、瞳の奥はもう遠くを見ていた。


「私の姉は、“黒面・影裂”の実験体にされた。 あの人の記憶は全部、里の禁術に喰われた。

 誰も止めなかった。“忍の務めだから”って、誰も、助けようとしなかった」


楓の表情が凍る。


「……知らなかった。ツユメ、そんなこと……」


「知らなくていいと思ってた。でも――」


ツユメの目から、一滴の涙が落ちた。


「ごめん。あんたまで巻き込むつもりじゃなかった。 でも、あのままじゃ……きっと、あんたも“器”にされてた。禁術の力を、奴らは“道具”として継がせる気だった」


 「だったら、私が拒めばよかっただけじゃないか!!

 ツユメを殺し合う理由になんて、したくなかった!!」


「私だって、殺したくないよ……!!」


叫びのあと、ふたりは沈黙した。


そして静かに、刃を抜く音がした。


「でも、もう“戻れない”の。私は忍を裏切った。私が壊したこの里を見て、あんたが笑って許すなら、そんなの……あんたじゃない」


「……だったら、せめて本気で倒す。あんたが望んだのなら」


風が止まる。

時間も、呼吸も止まったような静寂の中。ふたりは、同時に駆けた。


挿絵(By みてみん)


戦いは“技”ではなく、“想い”の応酬だった。


《影分身・七幻躯しちげんく》ツユメの分身が次々と楓を囲む。


「本物は……どこ!」


視界を奪う幻術、《錯歩連鎖さっぽれんさ》楓の目を惑わせる。

だが楓も布を駆使し、気流と影の揺れで位置を見極める。


激しく舞う布、回転する手裏剣、火薬玉の閃光。

刃と刃がぶつかるたび、過去の記憶がよみがえる。


風ノ里の夏祭り、

並んで握った修練用のクナイ、

寝ぼけて一緒に布団にもぐった夜


そのすべてが、斬り合いの中にちらつく。


「どうしてこんな形でしか、あなたと向き合えないんだよ……!!」


楓が叫ぶ。


「私だって……本当は、あの夏に戻りたかったよ!!」


ツユメが叫び返す。


だが、お互いがお互いを斬る。

斬らなければ、終わらないと知っているから。


ついに、楓の布が、ツユメの仮面を砕く。


血が流れ、ツユメは倒れる。

仰向けに倒れた彼女の目には、やはり、涙があった。


「……最後に見た夢、楓と過ごした日だったんだ。 あの頃のまま、あんたはまっすぐで、強くて誇れる子だった」


「だったら……! どうして……!」


「……あんたに、汚いものを見せたくなかっただけ……」


ツユメの瞳が、ゆっくりと閉じられる。


その手の中には、小さな短冊が握られていた。

《願い:私たち楓とツユメに、普通の未来を》

あの日の夏祭り、七夕に書いたふたりの願いのうち、

ツユメがずっと持っていたもの。


楓はそれを見て、声をあげて泣いた。

仲間がそばにいても、

涙は止まらなかった。


◆◆◆


後日、楓はツユメの短冊を、風の中へ解き放った。


「叶えてよ、ツユメ……。私、普通の未来を仲間と歩くから」


風が短冊をさらい、空に舞っていく。


その姿を、ミッシェルとお雪が黙って見守っていた。


楓の背は、小さく揺れたまま

でも、真っすぐ立ち続けていた。


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