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【44万6千PV突破 ! 全話 完結】運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『竜騎士のミッシェル姫と雪国の剣士お雪の天罰 成敗!時々 くノ一楓(かえで)』
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第3話 大泥棒ミス・ミミと乙女の誇り

薄暮の町、バンガード。

貴族の別荘が立ち並ぶ裕福な町に、貧しい庶民の影がちらついていた。


「ムラサキだ! ムラサキが昨日もパンを配ってくれた!」


「ママの薬もくれたよ! すっごい優しい人なんだ!」


路地裏では子供たちが、目を輝かせて語っていた。

全身紫色のレオタード姿の「ムラサキ」と呼ばれる女盗賊

貴族の屋敷から金や薬を盗み、貧民に配っているという“義賊”。


しかし、その名は今、町の伝言板の指名手配書に載っていた。

【大盗賊ムラサキ 女/変装の名人/単独行動 懸賞金2000金貨】


「まったくけしからんですわ! 法に背きながら“良いことしてます”なんて……それは偽善の極みですわ!!」


ミッシェルが懸賞金の貼り紙を見ながら、プンプン怒っていた。


「わたくし、正義の名のもとに裁きますわよ!」


「……盗んだ理由、聞いてからでも遅くない」


隣で静かに佇むお雪が、貼り紙を見つめながらぼそりと呟く。


「子供に薬を配る盗賊。目的が違えば、行動も違う」


「ですからっ、それをしてしまったら、正義がグラつきますの! “盗みは悪”そこは揺るがせてはいけませんわ!!」


「じゃあ貴族の不正は?」


「……それとこれは別ですわ!」


バチバチとまたも火花を散らすふたり。

その様子を見ながら、楓はこっそり木の影に消えた。


■■■ 


夜の市場跡。

朽ちた教会の鐘楼に、一人の女が静かに佇んでいた。


紫のレオタードにケープ、流れる銀髪、仮面で顔の半分を隠している。

それがムラサキこと本名 ミス・ミミ。


挿絵(By みてみん)


「こんなところで待ち伏せなんて、昔の私だったら気づかなかったかもね」


仮面越しの声に、影から楓が姿を現す。


「さすが、伝説のくノ一崩れ……いえ、楓さま。お見通しですか」


「あなたも忍びでしょ? 気配の殺し方が甘いわ」


「お褒めに預かります〜♪ でも今日は遊びに来たわけじゃないのよ。あなた、追われてるの。うちの部隊に」


ミス・ミミはほんの一瞬、沈黙した。

そして小さく笑った。


「民のために盗んでるだけ。でも“法”の前では、ただの泥棒。わかってる」


「……逃げるつもりは?」


「できるなら。でも、子供たちを巻き込むのはもうイヤなの。さぁ、どうするの? あなたたち、正義の味方なんでしょ?」


◆◆◆ 


翌朝。

鐘楼の前で、三人が再集結する。


「さあ、お雪さん。今日こそ一緒に“天罰”を」


「……ムラサキことミス・ミミは逃がすべき」


「なにを言ってますの!? 今回こそ、意見が割れますわよ! そちらが成敗派、わたくしが逃がす派!」


「……は?」


「だって、彼女は民草のために働いていますもの。それなら、同じ貴族として見過ごすべき正義があると思い直しましたの!」


「……急にどうした。キャラぶれてる」


「ぶれてませんわよ! 反省と成長ですの!」


楓は手裏剣をくるくる回しながら、苦笑する。


「も〜う、毎回意見割れるねぇ。…でも今回は天罰も成敗もせずに“誰も傷つけずに終わらせる”ってのも、アリじゃない?」


 そのとき、街の警備隊が鐘楼に殺到してくる。


「ムラサキを見たぞ! 包囲しろ!」


「全員、捕らえろ!」


その瞬間、三人は素早く跳び出した。


ミッシェルが前に立ちふさがり、

お雪が剣の柄で隊長の足元を払う。

楓がスモークボムを投げて、ムラサキを鐘楼から逃がす。


挿絵(By みてみん)


「いったん見逃しますわ! 次に会うとき、わたくしたちが“裁く”か“救う”か――そのときまで、精進なさいな!」


「……期待しないで。次は斬るかも」


「……クセがつよい……マジで」


ムラサキが煙の中に消える。


事件は報告書にも残らなかった。

ミッシェルも、お雪も、楓も、今回は「対象未確認」とだけ報告した。


「次は本当に敵になるかもしれない。それでも、“今の彼女”は見逃す価値がある」

お雪がそうつぶやき、ミッシェルが静かにうなずいた。


楓が背伸びしながらふわっと笑う。


「にしてもさ、どっちが正義とかじゃなくて善悪って難しいよね」


「ええ。ですからこそ、守る価値がありますわ」


「……共感」


今日もまた、彼女たちは迷いながら進む。

正義と罪のあいだで揺れる、乙女たちの誇りを胸に。



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