第2話 温泉旅館に潜む怪盗団
南の温泉郷、ウルルの里。
山のふもとにある静かな宿場町だったはずなのだが。
「また盗まれたんですかい?」
「へぇ……昨夜も金庫から銀貨がすっかり。まるで、忍びの仕業って話で……」
旅館の女将がため息をつきながら語る。
「“月影団”って名乗る怪盗団でしてな。派手な予告状まで来たんですのよ……おほほ、こわいこわい」
その様子を見つめる三人の姿があった。
竜騎士姫ミッシェル。(わがまま B型)
雪国の剣士お雪。(頑固 A型)
くノ一楓。(おおざっぱ O型)
※A型とB型の相性はよくありません。自由なB型にA型は振り回されて爆発する。O型はまぁいいかっと受け流す。(一般論)
ゼロ部隊の臨時任務。今回は「客を装って潜入調査」。
だが
「お雪さん、どうして湯上がりに牛乳じゃなくて、お茶を選ぶんですの!?」
「……ただの好みだ。くだらない」
「くだらなくありませんわよ! 湯上がり牛乳は日本人の誇りですわ! ソウルドリンクですのよ!!」
「私は雪国出身。冷たい牛乳、腹こわす。無理」
「弱いっ!! 体が弱いですわお雪さんっっ!!!」
バン! と湯上がりラウンジのテーブルをミッシェルが叩く。
その横でお雪が冷たい目で睨み返す。
「……うるさい。あと、牛乳こぼれた」
「おほほ……それは謝りますわ。でもこれは正義の衝突ですの!」
「ちがう。くだらない争い」
楓はうんざりした顔で2人の間にスッと割って入った。
「あーもうっ! 温泉入ってまでケンカすなーっ!!」
「ですが楓さん、聞いてくださいまし! 牛乳かお茶かという――」
「はいストーップ! どっちでもいいっ!!!」(ピシャアアア)
「……ぴしゃあ、って音なに?」
「私の心の音です」
一度ため息をついた楓は、ふっと顔を引き締めた。
「それより、見てこれ」
そう言って見せたのは、客室の天井裏の写真。
そこには、小型の滑車とロープ、そして使い捨ての足袋の跡。
「……忍び足、ですわね」
「いやだから、それ私たちの同業なんだけど」
「犯人は“月影団”……偽忍者の仕業か。許せない」
「まぁまぁ、正体はまだ不明だけど、あたしが一足先に潜入済み」
■■■
夜。
女将の部屋に現れた黒装束の影。
「今宵、貴女の金庫、いただきに参上いたしました。怪盗・月影団より」
美声の予告と共に、窓からひらりと舞い降りる影。
だがその後ろには、すでに三つの気配が迫っていた。
「きらびやかに登場とは、まさに悪の中の悪! わたくしの天罰で地に落としてさしあげますわ!」
ミッシェルが槍を構えながら突撃!
「動けば斬る」
お雪が横から滑り込むように斬りかかる。
「……やかましいけど、速い。連携だけは取れるのが不思議」
敵は驚き、ロープで逃走を図るが
「逃がしませんよ。色気も忍術も本物って、見せてあげる」
楓が布一枚でロープを断ち切り、天井裏から逆さに登場。
「な、なんだお前ら……連携が良すぎて怖い……!」
「ふふん! さぁ、どの決めゼリフにします? “成敗”? それとも“天罰”?」
「……くだらない論争、また始まる」
「ええい! では今回は間を取って“成罰“でいきますわっね!」
「……合体させるな」
「クセつよすぎだってばもう!!」楓の魂のツッコミが炸裂する。
◆ ◆ ◆
翌朝、温泉街には平和が戻っていた。
犯人は怪盗団に扮した元忍者集団。楓の過去の同門の者もいたが、改心して旅館の板前になったという。
牛乳を片手に、ミッシェルが嬉しそうに言う。
「やっぱり湯上がりはこれに限りますわ!」
「……私はお茶。変わらない」
「またそれですのぉぉぉぉっっ!!」
「ふたりとも〜、牛乳もお茶も、旅館を救ってくれたお礼で、おかわり自由だよ〜?」
楓ののんきな笑顔が、朝日と湯けむりの中に溶けていく
そして今日も、ゼロ部隊トリオのドタバタは続く!