第1話 ゼロ部隊の特殊急襲部隊 〈混ぜるな危険、デンジャラスコンビ〉
鉱山都市メルグリム。
噴煙と石炭の香りが絶えず漂うこの町に、ある噂が流れていた。
「最近、夜になると金目の物がごっそり盗まれるんだってさ」
「しかも犯人は“空から”現れるんだとか……」
「龍の仕業か? いや、空挺の盗賊団じゃねえのか……?」
そんな話が広がる中その“空”から本当に何かが降ってきた。
ドオオォォン!!!
轟音と共に着地したのは、赤のドレスに銀の鎧、王冠をかぶったひとりの女性。
堂々と、まっすぐに通りの真ん中を歩く。
「ごきげんよう、庶民の皆様! わたくし、竜騎士国の王女、ミッシェル=ガンエレファント! この町に蔓延る悪を、天罰でもって裁いてさしあげますわ!」
片手には、禍々しい意匠の王杖。
その笑顔は貴族全開、高慢さ全開。
だがその5秒後、背後の屋根に軽やかに着地した影があった。
紺の着物をまとい、鋭い目つきの黒髪の女が、通行人をよけながら静かに歩み寄る。
「……うるさい。悪は斬る。ただ、それだけだ。成敗、終了」
彼女の名は、お雪。
雪国の剣士であり、正義に生きる寡黙な女。
「はっ!? あなた、わたくしより先に裁こうとしましたわね!? “天罰”こそが正義の極みですわよ!?」
「……うるさい女だ。成敗は終わった」
「終わってませんわ!!」
ガミガミ/ピシリと火花を散らす2人。
その様子を、屋根の上で肘をついて見ていたのが、忍びの楓だった。
「初対面でここまでケンカするって……なにこのコンビ、クセが強すぎ……」
そのときだった。
横合いから、ずっと様子を見ていたフードの大男が苛立ちをあらわに立ち上がる。
「おいィ……おいおいおい……」
ミッシェルとお雪が同時にピタリと動きを止める。
「テメェら、何ずっと喧嘩してやがんだ。こっちは盗みに来てんだよ! 気づけやゴラァァ!!」
「……あら?」
「……存在感、なかった」
「誰だテメェらあああああ!!」
大男の怒号と共に、空中から他の盗賊たちが次々と現れる。
正体は空中から降下してくるグライダー装備の盗賊団、“空賊ラットマン”。
「やっと悪党が出てきましたわね! では、」
「成敗」
「ちょっ、だから“天罰”って言ってくださいましよッ!」
「天罰、意味不明。斬るだけ」
盗賊団が突っ込んできたその瞬間、
ミッシェルは龍槍を華麗に振り回し、
お雪は静かに日本刀を一閃
まるで打ち合わせしたかのように、二人の動きがシンクロする。
「な、なにィ!? さっきまでケンカしてたくせに動きが完璧じゃねぇかッ!」
「おほほほほ! わたくし、こう見えて連携もお得意ですの!」
「……お前が合わせたんじゃない。私が合わせた」
「いやどっちでもいいけど、敵まだ残ってるからねー!!」
女忍者の楓が屋根の上から手投げ爆弾をばら撒きつつ、爆薬を設置していた。
ドカァン!!
爆発と共に、残った空賊たちは空高く吹き飛ばされた。
地面に降り立ち、ミッシェルは髪を整えながら鼻を鳴らす。
「ふぅ……これでまた、民草の平和が守られましたわ」
お雪は日本刀を鞘に収めながら、ぼそり。
「……無駄にうるさいだけの女だと思ったけど。意外とやる」
楓が肩をすくめた。
「ホントにね……喧嘩ばっかでバランス最悪。でも、敵に回したくないタイプってやつ。こりゃあ、もうトリオ結成しかないっしょ♪」
こうして、ミッシェル・お雪・楓。
正義も主義もバラバラだけど、やたら強い“クセの強いデンジャラストリオの3人組”が誕生した!