【最終話】 『30秒でラストショット メイド、伝説になる』
“世界の味”を支配し、戦意を封じる最終兵器ミサイル。
その名は“ゼロテイスト・インフィニティ”。
ターゲット:地球全土の味覚中枢。
発射まで残り00分30秒。
標的は、“核ミサイルに擬装された味覚弾頭”。
味の消失と共に、すべての「味の喜び」が消える。
地下シェルターの司令室で、ダリ・メンドウはあくびをかみ殺した。
「核兵器で味覚奪うとか、どんな悪趣味よ…… ダリィけど……最後まで付き合ってやるわよ。」
狙撃条件:30秒以内、6つの弾道起動パネルを撃ち抜け
作戦ブリーフィングに集まったオペレーターたちは青ざめていた。
「標的パネルは弾道装置の奥に点在、 それぞれ角度・素材・距離・風圧が全く違う。
通常のスナイパーなら3時間でも無理だ……!」
ノエル司令が一言だけ、口にする。
「彼女に任せる。 狙撃30(サーティー)30秒の伝説のメイドに。」
30秒の戦いが始まった。
【カウントダウン:00:30】
「ふぅ……」
ダリは深く息を吸う。
【00:29】
第1パネル、低角のチタン製シールド。
狙撃角:87度/弾速調整:済。
パン!!
貫通。残り5つ。
【00:23】
第2パネル、スモークの中。視界ゼロ。
煙の流れと空気の密度で“在りか”を読んで撃つ。
パン!!
手応えあり。残り4つ。
【00:18】
第3パネル、背後のビルの屋上、逆光。
鏡に反射させてスナイプ。
「眩しいのよねぇ……」
パン!!
反射撃ち成功。残り3つ。
【00:12】
第4、第5パネルは連動型。
連続で撃たなければ起動する。
タイミングは、0.3秒以内。
「はいはい……」
パン!!パン!!
ダブルトリガー。正確無比。残り1つ。
【00:03】
最後のパネルは、ミサイル本体の“心臓部”。
ノエル《……間に合わない。撃てない角度だ!》
だが。
ダリは銃を下ろし、リュックから古びたスコープを取り出す。
それは、亡きアリシア・が愛用していた“遺された一式”。
「この角度……あの時の窓掃除と同じよ」
右手でトリガー、左手で補助レバー、足で支柱を蹴り飛ばす。
重心が、風が、すべてが、ピタリと合う。
「これがあたしの、ラストショット──」
パン!!....
【カウント:00:00】
全パネル、破壊完了。
世界の味覚は、守られた。
ミサイルは落ちない。
世界の味は消えない。
朝の喫茶店では、ホットケーキの香りがする。
ダリは缶コーヒーを飲み干し、崩れるように座り込む。
ノエルが遠くから通信する。
《やはり君は……天才だ。 そして、“誰よりもめんどくさがりな最強”。》
《狙撃とは“心の重さ”で引くもの。
だらけてていい。
サボってていい。
でも、撃つ時は確実に仕留める。 それが、君の生き方だな》
ダリは小さく笑った。
「仕事は嫌い。
でも……守りたいものは、あるのよ」
陽が差すビルの上、
誰も知らぬ伝説の狙撃者が、
眠るようにコーヒー片手に空を見ていた。
狙撃メイド、ダリ・メンドウ
その名は、30秒で世界を救った伝説となる。
《いったん完結》
いつかまた、彼女が“めんどくさそうに狙う日”が来るまで。




