第7話 最後の標的(ターゲット)は、あたし?
引き金を引かせない女、それが“狙撃30(サーティー)
深夜、地下ノード77の作戦室。
ダリ・メンドウに届いた依頼はこうだった。
《ターゲット:旧連盟構成員・グランツカイザー。場所:旧監視塔・廃都市ライン10。》
だが、移動中の無線にひとつ、奇妙なノイズが走った。
「メンドウ……その任務、偽装だ。本当のターゲットはお前だ」
冷たい風が、狙撃メイドの首筋をなでる。
暗闇に佇む廃都市ライン10。
響くのは風と、スコープの微かな調整音だけ。
「裏切り者? 機密漏洩?いや、“知りすぎた女”は処分対象ってか。ありがちで、ダリィね」
ビルの窓から、3つのレーザーポインターが彼女を狙っていた。
狙撃手、計3人。全員がゼロ部隊OB。
全員、ダリを知る者たち。
ダリはスナイパーマイクを開き、全員に言った。
「いいわよ。私をやるなら30秒以内に仕留めな。 それ以上かかったら、今度はあたしが撃つ番」
沈黙。
だが、0.7秒後、最初の引き金音が鳴った。
パン!!
甘い。
ダリはとっさに低く伏せ、床を転がりながら照準を覗く。
「あんたらの欠点、知ってるんだけど?」
パン! パン! パン! パン! パン!
30秒以内に全員、逆撃ち落とした。
廃墟の屋上に立ったダリは、司令ノエルのホログラムを見上げる。
「結局、裏で仕組んでたのは“超監査部”。ゼロ部隊はあたしの存在を“危険因子”と見たんでしょ」
ノエルは静かにうなずいた。
「だが、君は“抹消されなかった”」
「あたしが強かっただけでしょ」
「いや君は、“撃たせなかった”んだ」
ノエルは目を細めて、こう言った。
「君こそ、“引き金を引かせない天才狙撃手だよ、ダリ・メンドウ」
ビルの上。
傷だらけのスコープを拭きながら、ダリはそっとつぶやいた。
「……結局、めんどくさい世界だわ…… でもまあ……撃たれる前に飲むコーヒーってのは……悪くない」
夜の街が、またひとつ静かに燃える。