第6話 鉄のレシピ帳を撃ち抜け
調理は即殺、五皿勝負。狙撃スパイスの宴が始まる。
「これ、マジで……やっかいね」
屋上に降る細雨の中、ダリ・メンドウはしけた煙草を投げ捨て、懐からスコープ付きショットガンを引き出した。彼女の前に広がるのは、“グルメアリーナ”世界の裏にある地下料理闘技場。
今回の任務は、「禁忌のガストメンタル」敵組織が開発した“味覚×感情支配兵器”の無効化と奪取。
その効果は「食べた者の戦意と怒りを無くす」。
つまり、兵士が闘えなくなる。
“うまさ”で、心を封じる。
料理が兵器になる世界が来たのだ。
会場には既に世界中から集められたシェフ兼傭兵たちが並ぶ。
辛味の魔女。
冷凍爆弾スープの男。
生臭フランス料理の亡霊。
そして「蒸し鯛パラダイス軍曹」……
だが、最後に現れたのは真紅のローブに身を包んだ審判。
「さあ、始めようか。テーマは……“心を奪う料理”。」
五皿勝負の幕が上がる。
ダリの前に運ばれたのは、見慣れぬ一皿――
《クラム・セレナーデ》
見た目はただの貝料理。だが、ひと口食べた者の“攻撃性”を封じるという。
審判の声が響く。
「ダリ・メンドウ、試食せよ」
「……めんどくせぇなぁ……」
ダリは口元をしかめる。
そして、そっと皿にスプーンを伸ばす。
その瞬間。
銃声。
バァン!!!
料理ごと貝を吹き飛ばした。
「試食拒否……!?なぜだ!」と審判たちが騒ぎ立てる中、ダリは静かに言った。
「これ、“食うと撃てなくなる料理”だろ?
そんなもん、メイドとしてもスナイパーとしても失格なのよ」
審判のひとりが顔を歪める。
「バレたか……!」
敵は、五皿の中にガストメンタルを仕込んでいた。
ダリはポケットから取り出したメモを広げた。
「鉄のレシピ帳」。
かつてメイド長クラリスが残した伝説の料理メモ。
「……これで、“解毒料理”作れるかもね」
残りの食材は貝、ショウガ、チリパウダー、ライム、そして……
「さいごに火力。」
キッチンに向かわず、その場で皿に食材を並べた。
そして
ドン!!!
ショットガンで一撃。香りが一気に広がる。
皿が爆ぜ、香ばしい香りが空気を切り裂いた。
「即席・貝スパイス煮込み。
名付けて“クラリス流リセットスープ”よ……さぁ、あんたらも喰って解毒しな」
敵の兵士たちがそれを食べ、涙を流しながら戦意を取り戻していく。
「もう……撃ちたくなってきた!!」
「“味”で心を封じるだと? 料理をなめるなっての」
任務完了報告を出す前、ダリは缶コーラを片手に夜の街を見下ろす。
「ああ……マジでめんどくさかった……」
遠くでクロエの影がビルの上を歩く。
「……アンタ、また裏で動いてたんでしょ。勝手に恩返ししてんじゃないわよ」
ダリは、冷めた視線のまま、ふっと笑った。
風が皿の破片をさらっていく。
「でもまぁ料理も、任務も、撃ち抜けたからいいか」