第1話 『マジだりぃ~……でも当てるわよ?』
夜、ポルタカノスの廃ビル屋上。
冷たい雨。風。サイレンの残響。
そこで一人、メイド帽を被った女が寝っ転がっていた。
ライフルを枕に、もそもそと毛布にくるまりながら。
「……ん゛ぁ……」
「雨かよ……くそダリィ……なんで屋上任務なんだよ……」
「てか、こんな日に来るか? ターゲット……家で鍋でも食ってろよ……」
愚痴は止まらない。
インカム《ダリ、起きろ。ターゲットが来た。お前の担当区域に入った》
「…………はァ!? マジ来たの!?
いやちょっと待って、マジで心の準備ってあるじゃん!?
雨だし、今日チョコ食ってないし、なんか肩こってるし、あと足つってるし!」
《起きろ。あと45秒》
「っっっダリィ〜〜〜〜〜〜〜〜……!!」
それでも彼女はライフルを構えた。
“イーター03”、最新式の反応型スナイパーライフル。
まるで体の一部のようにしっくりくる。イヤだけど。
「……あーもう……あたしにしかできないんでしょどうせ。知ってんのよそういうの。
だからやるけどさ……やるけどさ! ダリィんだよ、ほんと!!」
スコープにてターゲット補足。ウロ・ガリーニ。
車から降り、左右を確認し、屋敷の階段を一段登る。
そのときダリの目が獣のように光った。
「……30秒だけマジになるから、アンタ今のうちに祈っときな……“白き死の女神に狙われたこと、後悔するがいい……」
引き金に、
ダリの右手がイヤそうに触れる。
「チッ……マジでダリィ……」
パン!!
スコープ越しの世界で、赤い点がひとつ、
ぽとりと消えた。
「はい、終了〜。当たった〜。おつかれ〜。あたしすごい〜。……って、誰も褒めないし!クソダリィな!」
屋上に寝そべり、缶コーヒーをちゅうっと吸う。
「つーか、帰ってチョコ食いたい。あと風呂……あー……世界救ってるのに全然テンション上がんね……」
《命中確認。任務完了だ、ダリ》
「はいはい。“伝説の30秒スナイパー”、ただいまダリィに爆誕だよっと」
背後に朝日が差す。
ぐう、とダリの腹が鳴った。
「……チョコ、買って帰るか……マジでダリィけど……」
「圧倒的な才能」 ×「めんどくさがり屋」全開のゼロ部隊の特殊部隊のダリ・メンドウが、ぶっきらぼうに、それでいて伝説級の腕で渋々”狙撃任務”を開始します。