表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/1101

第24話 シスターマリアの誕生日

港の貿易都市――港町リーベルト。

白い灯台が青空にそびえ、石畳の道には活気ある商人たちの声が響く。

海風に乗って魚の焼ける香ばしい香りが鼻をくすぐり、人々の笑い声が波音に溶けていく。


「ようやく、人間の暮らしがある場所に来たって感じだな……」

(リスクは、心の中でほっと胸を撫で下ろしながらも、マーリンの背中には自然と距離を取っていた。


あの爆裂魔法“クリムゾンフレア”


あのとき、爆炎の中で笑みを浮かべていたマーリンの横顔が、今も脳裏に焼き付いて離れない。


(あれは……人の領域じゃない。黒魔術師じゃなくて、災厄そのものだった)


勇者アルベルトと黒魔術師マーリンは町の長へ挨拶に向かった。

俺とシスターマリアは薬草や保存食など、物資補給を任される。


けれど今日という日は、それだけじゃない。


「……今日は、シスターマリアの誕生日だ」


俺は密かに貯めていたへそくりの袋をポケットで握りしめた。

数日前から、ずっと計画していたんだ。彼女に、ささやかでも喜んでもらえる贈り物を渡したいって。


そんなとき――


「わぁ……」


彼女が足を止め、花屋の店先をじっと見つめていた。

目を向けた先には、鮮やかな黄色の薔薇ばらが咲き誇っていた。


白い修道服に、黄色い薔薇ばら――その組み合わせは息を呑むほど美しかった。


まさに、“マリアージュ”(結婚)


「シスター……」


俺は思わず声をかけた。


「この黄色い薔薇ばら……シスターマリアの誕生日に、プレゼントさせてください」


シスターマリアは驚いたように目を瞬かせたが、すぐに優しくほほ笑んだ。


「まぁ……リスクさん。そんなつもりじゃ……でも、嬉しいです」


「ずっと……何をあげたら喜んでくれるか悩んでたんだ。でも、これを見てすぐに決まった。シスターには、これが似合うって思ったんだ」


挿絵(By みてみん)



花屋の老婆が微笑みながら、黄色い薔薇ばらを一本、丁寧に包んで渡してくれた。


すると、シスターマリアはすっと花屋の隣の鉢から、小さな白い花を摘んで俺に差し出した。


「では……リスクさんには、私からこの“カスミソウ”を」


「えっ……シスターマリア?」


「黄色い薔薇ばらと、白いカスミソウ。お互いを引き立て合う花なんですって。まるで、リスクさんと私みたいですね」


その一言に、俺は一瞬、息を呑んだ。


(……シスターマリア、それ……本気で言ってる?)


「……今日は、誕生日をこうして祝ってくれて、本当に嬉しい気持ちになれました。ありがとう、リスクさん」


「……いや、こっちこそ。シスターの笑顔が見れて、最高の一日になったよ」


沈みゆく夕日が、港町の海を黄金色に染めていた。


挿絵(By みてみん)


波の音と、ゆるやかに吹く潮風の中

俺たちは、ほんのひととき、戦いを忘れて穏やかな時間を過ごしていた。


宿の手配も終え、物資の補給も完了。


旅はまだ続く。だけど、今だけは、この小さな幸せな瞬間を胸に刻もう。


シスターマリアがそっと俺の隣に立つ。


「リスクさん、これからも……一緒に、旅を続けてくれますか?」


「もちろん。どこまでも、シスターマリアを守るよ」


俺たちは夕陽に染まる海岸線を背に、静かに歩き出した。


「ここからが、本当の海への冒険だな」


新しい港町、波音が聞こえる街角に立ち、

俺たちは新たな旅の幕を、静かに、でも確かに開こうとしていた。



【第一部・完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ