おまけ01 狼女スパイになる。
私の名前はナターシャ・アルベルト。
元・戦闘狂の狼女、今は二児の母。
勇者アルベルト(ハーレム生活中 他10人と結婚)と結婚し、双子の子狼「ナツ」と「フユ」を育てながら、ゼロ部隊の偵察任務に復帰しました。
偵察先では、敵地に潜入して情報を集め、時には命がけで報告書をまとめ、
夜には……うふふ、世界のグルメをこっそり楽しんでいます。
そう、これは私“お母さん”ナターシャが、
家族を守るため、世界を味わい尽くすために戦う物語。
胃袋と愛と情報戦、全部、私がいただくき ガルルルッ!!
さぁ今日も早朝から任務開始!
夜明け前、まだ薄暗い山間の街道を、フードを深くかぶった一人の女が駆け抜けていた。狼のようにしなやかな足取り。そう彼女こそ、ゼロ部隊偵察分隊所属の狼女ナターシャ。
そして今、彼女の任務は
「観光……じゃない、偵察よ、これは偵察なのよ……!」
背後から追ってくるのは敵兵でも魔物でもなく、ふわふわと香る味噌の匂い。
「くっ、屋台村の焼き魚定食……あれは犯罪的な香りだったわ……」
任務地は南方王国カメリア。最近、隣国との軍事演習が活発化しており、ゼロ部隊は不穏な動きを察知してナターシャを派遣した。
公式には「旅芸人の剣舞師」として潜入している。
屋台村へカメリア城下最大のグルメ地帯。香ばしく焦げた味噌と魚の脂が溶け合い、炊きたてご飯の湯気が立ち上る。
「ちょ、ちょっとだけ……情報収集ってことで……!」
ナターシャは理性と本能の激しい戦いに敗北した。焼き味噌サバ定食(香草だれ付き)を注文し、席についた瞬間──
「はぁぁああああッッ!! うっっまいッッッ!!」
あまりの旨さに、耳がぴょこんと立ち、尻尾がぶんぶん振れてしまった。
周囲の客が一瞬、目を丸くしたのをナターシャは見逃さなかった。
「(しまったッッ……狼女だってバレた!?)」
が、店主は笑って言った。
「お嬢さん、旅の獣人さんかい? ようこそカメリアへ。よかったら、おかわりどうだい?」
……どうやらこの国では、獣人も比較的よく訪れているらしい。ホッとしたのもつかの間、彼女はご飯を4杯、焼き魚を3尾平らげた。ごちそうさまでした。この味にドス恋!(意味 この味はド・ ストライク 恋しました。)
夜、彼女は宿に戻り、魔導式暗号通信を開いた。
「こちら、ナターシャ。軍の動きは通常。王国軍は今週、祭事警備に回されており、戦備の兆候は薄いわ」
《通信:了解。次の潜入先まで2日間自由行動とする。観光で体調崩すなよ》
「……くっ」
通信が切れたあと、彼女はベッドに倒れこんだ。
「スカート……入らない……」
「ベルト……前の穴に戻らない……」
「な、なんでたった1日で……!」
ナターシャは頭を抱えた。子どもたちに「お母さん、またムチムチになったね」と言われる未来が見える。
「いいのよ……これは任務。味を調べるための、身体を張った任務だったのよ……!」
言い訳しながら、そっと冷蔵庫を開けた。残りの「味噌だれサバ」が光っていた。
「……明日から……明日から本気出す……!」
ナターシャは草のベットの上でで、自分より大きな巨大なご飯をお腹いっぱいに食べる夢をみた。
「……Zzz……もう。たべられましぇん……Zzz……」