第二話 夢の中でスカウトされました。
魔界の大宮殿、金と黒を基調とした重厚なベッドルーム。
ベルベットのカーテンがゆらりと揺れ、夢見心地の少女がベッドでぐっすり眠っている。
ふにゃぁ…と頬を緩めながら、抱きしめているのはピンク色のバクちゃん。
「……んふふ……ケーキの海に……白馬の王子さま……」
小さなバクちゃんがむにっと顔を出し、そっと耳打ちする。
「ベルモット様、そろそろ起きる時間ですよ。今日こそスカウトに来たみたいです」
「ん〜……白馬じゃないなら……行かなーい……Zzz」
と、ベッドの外では、勇者アルベルトが真剣な目で彼女を見つめていた。
だがその隣、浮かせた炎のツノをピクピク震わせていたのは、あのちびっこ悪魔。
「アンタ、何回スカウト来とると思ってんの!? いっつも寝とるし!」
ベッドの上でごろごろ転がりながら、ベルモットはふくれっ面。
「だって……あたしの運命の人は……白馬に乗って……金色の髪で……優しくて……イケボで……チョコ持ってるんだもん……」
「どこの夢女子理想パックやぁぁぁ!!!」
「今来てるのは白馬じゃなくて、魔ロバに乗った筋肉ゴリゴリの勇者やぞ!!!」
アルベルトが少しだけ照れて、肩をすくめる。
「いや、まあ……イケボじゃないこともないし? チョコは持ってないけど……情熱はあるぞ」
「やだ〜〜っ! ロバとか無理〜〜っ! 運命の王子様は“パカラッパカラッ”って音で来るって決まってるのっ!!」
「ベルモット様、そもそも“白馬”という動物、魔界にはいないのですが……」
「えっ……じゃあ……いつも夢に出てくるあの王子さまは……?」
「……現実には……存在しません……」
「うそーん!!!!!!」
頭を抱えてベッドの上でゴロンゴロン転がるベルモット。
その様子を、さっちゃんは鬼のような顔で見つめていた。
「アンタ何歳や!? こんなヒマ姫、戦力になるわけなかろうがァァァ!!」
「ぐすん……王子さまじゃないと……外には行かないもん……」
「この期に及んで引きこもり宣言!? ちょっとバクちゃん! あんたからも何とか言いなさいよ!」
「ええと……勇者さんが、馬の着ぐるみ着てくれたらワンチャンあるかと……」
「あるかああああ!!!」
「……あと……白馬じゃなくても、白いペンキで魔ロバを塗れば……」
「お前ら揃って頭おかしいわァァァ!!!」
ベルモットはふて寝の体勢で再び寝息を立て始める。
「……でも……あの王子さまの声……ちょっとだけ……似てたかも……Zzz……」
「おおっ!? もしかして脈アリ!?」
「寝ながらフラグ立てんじゃねぇぇぇぇぇッ!!!」
宮殿の天井に羽毛が舞い、夢と現実が曖昧に溶ける中。
その日、スカウトは未だ成立しなかった。