第10話 エピローグ? 〜幸せは、黒魔法の向こう側に〜
静かな夜。満天の星の下、マーリンは一人、丘の上の古城の塔に腰を下ろしていた。魔界のデビルパークの喧騒も今は遠く、風がゆるやかに魔術師の黒衣を揺らしていた。
「……ほんと、いろんな“ろくでもない男”がいたわね」
彼女の手元には、くすんだ水晶玉。そこにぼんやり浮かび上がるのは、これまで彼女が出会ってきた男性たちの顔。
タバコの吸い殻ごと、ポイ捨て地獄行き キザオ。
元カノの話が長すぎて未練たらたら カコミレン。
顔が整ってイケメンだが中身がない ガンメンタカオ。
夢だけ大きくて財布はスカスカのロマン・スゴ。
態度は横柄、顔もパンパンに膨らませたクレーマクレマ。
1円単位で割り勘するケチなメチャセコイ。
自分の伝説自慢、そして無駄に盛られた筋肉 キケエイコウ。
ママとしか心を通わせられなかったハハダイスキ。
ハメを外しすぎて顎を外すダメな大人 キモワライ。
マーリンは、ふっと笑った。
「でも……全部、面白かったかもね」
一人ひとりが教えてくれた。「男と出会うたびに、自分の本当の気持ちが少しずつ見えてくる」そんな感覚。いくら強大な魔法を使えたって、自分の心だけは一番難しい。
「“いい男”ってのは、どこか遠くにいる誰かじゃない。たぶん……“自分自身”を信じて歩ける強さ。そんなものなのかもしれないわ」
空を見上げる。星々の光が、まるで未来を祝福しているかのように煌めいていた。
そこへ、どこからともなく黒い翼の影が舞い降りた。
「そうか、マーリン。そろそろ“魔王の後妻”っての、考えてみないか?」
現れたのは、あの魔界を統べる魔王ネクロデス。角とマントが今日も威圧感たっぷり。しかし、なぜか寂しそうな瞳をしている。
マーリンはゆっくりと立ち上がり、ふふんと鼻で笑った。
「悪いけど、わたくし302歳。魔王の後妻より、自分の人生の主役でいたいの。……それに、あなたもなかなか“ろくでもない男”の部類よ?」
魔王は肩をすくめて笑った。
「そっか。なら、またどこかでな。……気が変わったら吾輩を呼べ。世界が滅んでなければ駆けつける」
「そのときは……黒魔術のブラックジャッチメントの火を二倍返しして差し上げますわ」
風が吹いた。水晶玉が淡く輝き、そっと彼女の手元から消える。
魔王が去り、星空の下に再び一人。だが、もう孤独ではなかった。
マーリンはマントを翻し、塔の階段を下りていく。
「幸せ? ふふ、黒魔法の向こう側に……あるかもね。まあ、なくても、わたくしが作ればいい話よ!」
闇夜に響く高笑いと共に、黒魔術師マーリン302歳の爆撃放浪記、ここに堂々の(たぶん)完結!
「次回作? もちろん未定ですわ♡
私が尊敬できる殿方に会うその日まで、」
黒魔術師マーリンの婚活の放浪は続く。