第四話 私の歌 世界で通用するかも
魔界の楽団との“デス・バトル・オブ・ザ・音痴”に勝利し、
塔の静寂を取り戻したオーヤン・フェフェー。
「ふふふ……見た? 私の歌、魔界のプロミュージシャンすら追い返したのよ……!」
フェフェーは、顔を上気させ、塔のバルコニーから遠くを見渡していた。
朝日が差し込み、塔の崩れかけた壁を金色に染める。
「これはもう……もしかしたら……」
フェフェーは拳を握りしめた。
「私の歌、世界で通用するかもしれないッッ!!」
\ドーン!!/
効果音だけで塔がちょっと揺れた。
「ちょちょ、ちょっと待って! フェフェーさん! それ“世界征服”の前振りっぽいセリフだから!!」
勇者アルベルトが慌てて止める。
さっちゃん(ベビーサタン)は空中でグルグルしながら言った。
「でも……実際、すごかったわよ。音痴で相手を倒すなんて……ある意味、才能。」
「音痴じゃないってばァァ!!」
フェフェーの“訂正デスボイス”で瓦礫がもう一段崩れる。
その時――フェフェーは、ふっと真剣な顔になった。
「……アルベルト」
「ん?」
「あなたのスカウト、正式に受けるわ。」
勇者アルベルトは目を見開いた。
「え、マジで!? 嬉しいけど……えっ、あの、いいのか? 音痴ってめちゃくちゃ言ってごめん!」
「音痴音痴うるさいわね! 世界的歌姫に失礼でしょ!」
「じゃ、じゃあ改めて……! よろしく頼むぜ、相棒!!」
フェフェーはふふんと鼻を鳴らし――
「それと、あなた、今日から私のマネージャーね。」
「……え?」
「スケジュール管理、SNS更新、音響設営、送迎、差し入れ、お賽銭の回収、あと毎朝ボイスチェック」
「多くない!?」
「あとアイドルとしての衣装リサーチもお願いね♪」
「オレ勇者なんですけど!?」
さっちゃんが大笑いしながら言う。
「ぷくく、アルベルト……勇者からマネージャーへ、華麗なるジョブチェンジってワケね!」
その時、塔の内部から「ゴゴゴゴ……」といういやな音が響いた。
「あっ」
「フェフェー、まさか……」
「ちょっと歌ってたの……さっきの“テンション爆上げソング”……」
「避難――――!!」
\ボッカーーーーーン!!!!!/
塔、大爆散。
空高く吹き飛ぶ瓦礫、舞い上がるレースの布切れ、悲鳴と笑いの入り混じる叫び
そして、瓦礫の隙間から顔を出す3人。
塔が大爆発しても、なぜか無傷のフェフェーが、崩れた瓦礫の上に立ち、朝焼けに照らされながらポーズを決める。風になびくレースのドレス。背後でまだ瓦礫が燃えている。
勇者アルベルトとさっちゃんは、その姿に呆れながらも、どこか感動していた。
フェフェーは静かに呟く。
「歌って、うまいだけじゃ心に響かないのよ。」
その瞳には、かつて“呪われた歌姫”と呼ばれた少女の、確かな誇りと決意が宿っていた。
\ドォォォン/
塔の瓦礫の最後の一片が、盛大に崩れ落ちる。
塔は完全に崩壊した。
こうして爆音の天使 オーヤンフェフェーがゼロ部隊へと入隊した。