第三話 デスボイス VS 魔界の楽団
塔の天井が、フェフェーの喜びの咆哮で崩れ落ちた――かと思った、その時。
「ぎゃあああああ!! また崩れたあああ!!」
「フェフェー、もうちょっと感情抑えて!」
アルベルトとさっちゃんの叫びを遮るように、瓦礫の隙間から“黒い楽譜”が舞い落ちる。
そして――
「ドォン!!」
漆黒の煙と共に、天井から何かがどさっと落ちてきた。
「……演出バッチリね」
さっちゃんが呆れ顔で言う。
煙が晴れると、そこに立っていたのは
奇妙な仮面と楽器を持った5人の集団。
金色のサックスを肩に担ぐ大男、全身ヴィオラのような細身の男、浮遊する太鼓の精霊……
それはまさに、“魔界の楽団”。
「フォフォフォフォ……我ら、魔界の楽団」
中央の団長らしき人物が、まるでオペラのように高らかに言った。
「この塔の封印が解かれし今、再び我らが世界を狂気の歌声で染め上げよう……
伝説の歌姫よ、共に“デス合唱”を奏でようではないか!」
フェフェー「……やだ」
「えっ!? 即答!?」
フェフェーはふるふると首を横に振った。
「私の歌はね、人を笑顔にするためのものなの! あんな痛そうな叫び声と一緒にしないで!」
「痛そうとか言うなァ!!」
さっちゃん(※本当に痛そうだったけど)
「ならば仕方あるまい……ならば、**音の決闘**だ!」
魔界の楽団たちが一斉に構えをとる。
「第一楽章・狂騒の調べ(ケイオス・フォルテ)!!」
ドオォン!!!
重低音と歪んだ高音が波となって、塔の空間を揺るがす。
天井の残骸が舞い上がり、柱がひび割れる。
「グッ……こいつら、音そのものが攻撃になってる……!」
アルベルトが剣で音の衝撃を防ぎながら、歯を食いしばる。
「フェフェー、やり返して!!」
「うう……私の声で、勝てるかな……」
「勝てるさ。だって、あいつらより“ブッ壊れてる”からな!」
「ひ、ひどい言い方!」
でも、フェフェーの中に――確かに湧き上がっていた。
「……行くわよぉぉぉぉおおおおおおお!!」
デスボイス炸裂!
「ぎゃぼぉぉおぉおおおぉおお!!」
轟く一声に、魔界の楽団のサックス男が耳から泡を吹いて倒れる。
太鼓の精霊が音程の乱れに共鳴して爆発。
ヴィオラ男は音の衝撃で自分の弦に巻かれてぐるぐる巻きに!
団長「バ……バカな……なぜ我らの完璧な調律が……この音痴に崩されるのだぁぁああ!!」
フェフェー「音痴じゃないもん! “魂の歌”なのよ!!」
団長「ぐわああああああああっ!! 耳がっ耳がァァ!!」
魔界の楽団は、爆音の嵐に吹き飛ばされ――空へ、闇へと退散していった。
静けさが戻った塔の中。
「……勝ったの……?」
フェフェーがぽつりと聞く。
「おう。アンタの勝ちだ、爆音歌姫フェフェー!」
「わああああああ~~~~んっ!!」
「ぎゃあああ!! だから泣くなぁぁぁ!!」
塔の残った壁が崩れた。