第22話 人材不足
「うぅぅぅ……」
反逆の戦士バルドルは、ふらふらと国境方面へと歩いていく。額には大粒の汗。頬は真っ赤。
「頭……痛ェ……なんであんな難しいクイズの問題……」
バルドルはついに木に抱きつくようにして座り込んだ。どうやらクイズで脳を使いすぎて、熱が出たらしい。
一方そのころ、山頂の崖の上。
「……シスターマリア! いますか!? 大丈夫ですか!?」
俺は必死に崖の上へと駆け上がりながら、草むらへ向けて叫んだ。
「リスクさん、ここにいます」
細くも力強い声が返ってきた。
草をかき分け、白い修道服が見えた。
顔に土がついているが、無事だ。俺は思わず駆け寄り、ほっと息をついた。
「シスターマリア……無事で良かった。本当に……」
「それにしても……」
マリアは小さく首をかしげて言った。
「なんでバルドルさん、私のこと“ゼロの能力者”とか言ってたんでしょう?」
「ん?ああ、あいつバカだからな。誰かに変な情報つかまされたんだろ、きっと」
俺は曖昧に答えた。が、内心では確信していた。
――その情報を流したのは、きっと、あの女だ。
「シスターとリスクさん、ご無事でなによりですわ♪」
高い声と共に現れたのは、あの女。黒魔術師のマーリンだった。
その後ろには、泥まみれの勇者アルベルトもいた。
「マーリン、おまっ……なんで急に消えたんだよ!?」
俺は怒鳴った。
「だって、アルベルトさんがいないとこの戦闘は勝てないと判断いたしましたの」
マーリンはケロッとした顔で言う。
(ウソつけ!?バルドルとお前はつながってるんだろ!)
アルベルトがニッと笑って加わった。
「崖から木に引っかかってたらさ、いきなりマーリンが空から降ってきて助けてくれたんだよな~。びっくりした!」
「当然ですわ」
マーリンは胸を張った。
「ええ。私、固有スキル《浮遊》を持っていますの。空中に浮くぐらい朝飯前ですわ」
「レアスキルの浮遊って……マジかよ。てか、そんなの持ってるなら言っとけよ!!」
「いう機会がなかっただけですわ。私あと《黒魔術師を極めし者》という固有スキルもありますの」
(こいつ……人間と人魚のハーフとか言ってたけど、絶対違うだろ。魔族の血混ざってるだろこれ)
俺はマーリンのキメすぎた青い瞳を見て、ますます疑いを深めた。
どちらのレアスキルも俺は持っている人間を聞いたことも見たこともなかった。
(そんなに世界を見ていないが....)
「まぁまぁ、何はともあれ、二人とも無事だったし……次の町へ急ごうか」
勇者アルベルトはのんきな調子で手を上げた。
その時だった。
マーリンの左右の瞳が、怪しく紅く光った。
「……ふふ」
誰にも聞こえないほどの小さな笑い。
(バカ バルドル……暗殺、失敗したのね。ざまぁーみろだわ)
その心の声を、誰も知らない。
「……行きましょう、アルベルトさん。時間の無駄ですわ」
マーリンはくるりと背を向け、優雅に歩き出した。
俺はその背中を見つめながら、
(黒魔術師マーリン 、過去の戦歴を調べてみないと)
と決意するのだった。