表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

216/1101

第四話 罪と獣と、咆哮の果て

密猟団の砦は崩れ、静寂が訪れる。


ナターシャの咆哮が響いた後、父親は力尽き、崩れ落ちていた。


息を荒くしながらナターシャが剣を納めると、瓦礫の向こうから足音が近づいてくる。


「……終わったな」


そう呟いたのは――眺望部ナカムラだった。彼は腕を組んで、冷めた目で倒れた父を見下ろす。


「この男、身元を照合した。国際指名手配中の人身売買組織〈灰色の牙〉の元幹部。“ジャッカル”・レオン。重罪人だ」


ナカムラは一歩踏み出し、無線を耳元にあてた。


「こちらナカムラ。ターゲット確保、身柄を引き渡し地点へ移送要請」


父・レオンは荒い息を吐きながら、ナターシャを見上げ、吐き捨てる。


「……てめえも、結局は捨てられるんだよ……

あのシスターだって、どうせ哀れみで育ててただけだ……

あいつは俺から“お前を奪った”、ただの人間だ。信じてみろよ……裏切られるさ……」


ナターシャは父を見下ろしながら、静かに首を振った。


「たしかに……シスターは、血もつながってなかった。

でも、あの人の手は、あったかかった。

一人ぼっちのあたしに、名前をくれた。ぬくもりをくれた。生き方をくれた」


その言葉に、父・レオンは目を見開いた。


「……お前、まさか……」


ナターシャはそっと手を握る。白いローブの記憶が蘇る――小さな自分を優しく抱きしめた、あの人の眼差し。


「母さんは……知らない。でも、シスターは“あたしの母”だったよ。

そして、“誰かのために生きる強さ”を教えてくれたの。

……だから、あたしは、あんたと決別する」


「ぬぅ……ああああああああっ!」


レオンは怒りに任せて叫ぶも、すでにナカムラの鎖が彼の両腕を縛っていた。


「はいはい、反省は裁判所でどうぞ。じゃ、逮捕。未成年への暴行、人身売買、傷害、森の破壊行為、ぜーんぶセットでな」


ナカムラは非情に、鋼の手錠を音高く締める。


「地獄で母ちゃんに詫びろよ。あんたが壊したのは、命だけじゃねぇ」


父が連行されるのを、ナターシャは黙って見送った。


……風が吹き抜ける。


その背後に、勇者アルベルトが立っていた。


「……ナターシャ。お疲れさま」


彼は静かに近づき、ふっと笑った。


「よく……立ち向かったな。過去にも、血にも、そして、弱い自分にも」


ナターシャは振り返らずに言う。


「……人間って、怖かった。今でもちょっと怖い。

でも……母さん(シスター)の手のぬくもり、思い出したら……“もう一回くらい、信じてみてもいい”って思えた」


アルベルトは真剣な表情で言った。


「だったら――俺と一緒に来てくれないか?

ゼロ部隊に。お前の強さを、必要としてる。

人間と魔族と、獣と……全部を繋ぐ役目を、お前ならできるかもしれない」


ナターシャは驚いたように顔を上げた。


「……あたしが?」


「そうだ。これから先も、戦いは続く。でも、お前はひとりじゃない」


さっちゃんも横から手をあげて、


「そーそー! うちの部隊は変人と爆弾しかいないから、常識枠がもうひとり欲しいのよ! つーか、私より常識ありそうだし!」


「爆弾って私のことですかぁっ!?」と、遠くからマッド錬金術師の声が聞こえたが、それはさておき――


ナターシャは小さく笑った。


「……じゃあ、行く。人間をもう一度、信じたいから。あたしの“生き様”を、もう一度選びたいから」


その瞳は、かつての怯えた少女ではなかった。


「ナターシャ、ゼロ部隊へようこそ」


アルベルトの手と、ナターシャの手がしっかりと交わる。


狼の少女は、過去を断ち切り、人間と未来へ歩み出す。

こうして、罪と咆哮の果てに、ゼロ部隊に新たな仲間が加わった。

挿絵(By みてみん)


ゼロ部隊の偵察部隊へと配属が決まった。狼少女ナターシャ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ