第三話 密猟団アジト潜入!狼少女が吠えた。
薄暗い密猟団のアジト。
崩れた石壁の奥に、無数の檻が並び、怯えた瞳がこちらを見ていた。
「……っ! ここだ。仲間たちの匂いがする!」
ナターシャは鼻をひくつかせて走り出した。
アルベルト、さっちゃん、眺望部ナカムラがその後を追う。
「気をつけろ、あちこちに見張りがいる。無駄な殺生は避けたいが……」
「罠があったら、さっちゃんが全部燃やすから大丈夫なんだよぉ〜!」
「やめろ。燃やしたら中身まで焼けるだろうが」
そんな会話を挟みながらも、彼らは囚われた仲間を次々と解放していく。
そのとき――
「……ほう、ここまで来るとはな。牙をむいたか、ナターシャ」
アジトの奥、仄暗い部屋の中心に立つ大柄な男。
毛皮のコートをまとい、片目に傷跡。背中には巨大な獣の骨の意匠を背負っている。
「……誰よ、あんた」
ナターシャが身構える。
「名乗るまでもない。だが、そうだな――父親とでも言っておこうか」
「……は?」
「お前の母親は、かつてこの地で美しい狼だった。俺がこの牙の森を支配するため、連れてきた女だ」
「……なんて……?」
「最初は反抗的だったが、数日もすれば、従順になった。
ある夜、俺の子を身ごもり……お前が産まれた」
ナターシャの顔が、真っ青になった。
「……嘘、だよね……?」
「だが、あの女は逃げた。獣の血に目覚めたお前を連れて――森の奥へ。
あれが、お前の“幸せな日々”の始まりだったか?」
男の目に浮かぶのは、支配と軽蔑。
ナターシャは震えた。
目の奥が、ぐらぐらと揺れていた。
「そんなこと、言うな……! あの人は、あたしの母さんだよ! ずっと、あたしを――!」
「その“愛”が、今のお前を弱くしている。
獣は獣らしく、強い血だけが生き残ればいい。女も、子も、弱ければ売る。それが、俺のやり方だ」
「……ッ!!」
ナターシャは、震えながら一歩踏み出す。
「血がつながってたって、そんな奴、父親じゃない!
あたしの母さんを――母さんを、踏みにじって、あたしを道具みたいに語るな!!」
「ならば、お前がその弱さの証を見せてみろ。俺を超えられるか?」
ナターシャの目に、炎が灯る。
「……母さんは、あたしに“誰かのために生きる強さ”を教えてくれた。あたしは、その教えを選ぶ。血じゃない! 生き様で、あたしはあんたと決別する!!」
叫びと同時に、彼女の爪が鋭く光る。
「うぉぉぉぉぉおおおおっ!!」
彼女の咆哮が、密猟団の砦を貫いた。
「ナターシャ!!」
アルベルトが剣を構え、さっちゃんが全身に炎を灯す。
「バカ親父め! 女を踏みにじる奴は……地獄行きなんだよぉ!」
「ナターシャ、行け! 俺たちが後ろを守る!」
ナターシャは飛び込んだ。
父と・過去と。自分に向き合うために。