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第二話 蘇る戦場での記憶

午後の陽が傾く庭の片隅。

屋敷の裏手で、ダリ・メンドウは一人、静かに煙草をくゆらせていた。

手には、年季の入った一枚の写真。

そして、首から下げた黒ずんだ銀のペンダント。


それは、過去に封じ込めたはずの記憶を、否応なく呼び覚ましていた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


挿絵(By みてみん)


【過去の記憶】


―数年前、戦場―

山岳の要塞陣地で、ダリの部隊は全滅寸前だった。

四方を魔族に囲まれ、弾も食料も尽きかけていた頃。


「負傷者の救助に来ました!」

と駆けつけた戦場の医療部隊の中に、クラリスがいた。


髪をくしゃくしゃに乱し、泥と血にまみれながらも、彼女は笑っていた。


「あなた……笑って、死ぬつもりですか?」

「死なないよ。だって、助けに来たんだもん」


その無謀なまでの優しさに、ダリは心を奪われた。


クラリスは、自らの命を削るように負傷兵たちを救った。

そして、ダリの傷口を縫いながら、こう言った。


「お願い……この戦争が終わったら、妹に会ってあげて。あの子には、私の未来も背負ってほしいの」


その直後、砲撃の爆音が響き、あたりは光に包まれた。


クラリスは助けた兵士をかばって、即死した。


遺体の傍らには、ちぎれたペンダントが落ちていた。

軍に配られる「戦死の紀章」。

戦場で命を落とした英雄の証として、胸元に着けるもの。


それを握りしめたダリは、声にならぬ誓いを立てた。


「生き延びたオレが、あんたの分まで……背負うしかねぇだろ……!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


現在。


その時のペンダントを手にしたダリは、勇者アルベルトに向かって言う。


「この写真とペンダントを、クラリスの妹……アリシアに渡すのがオレの最後の戦場だ」


さっちゃんは口をとがらせながらも、目元をぬぐう。


「……ダリ、そういうの、最初から言いなさいよ。めっちゃかっこいいじゃん……チッ、泣くのは悔しいけどさ……」


アルベルトも、静かにうなずく。


「よし……一緒に届けよう。俺たちも、協力したい。」


その言葉に、ダリはかすかに笑った。


「おいおい……勇者様に泣かれたら、オレ、ますます逃げ場ねぇな」


首にぶら下げたペンダントが、夕陽に照らされて静かに光る。

そして彼女は、もう一度写真を見つめた。


「クラリス、アンタの願い……届けにいくぜ」


こうして、ダリの本当の戦いが始まった。



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