第6話 1円単位で割り勘する男、四次元空間へレッツGO
春爛漫の午後。
黒魔術師マーリンは、関西出身の男メチャセコイと、花見デートをしていた。
ここは大エイドのメイグロ川沿いの桜並木。
淡い桃色の花びらが空から舞い、川の水面にふわりと浮かぶ。
「まあ、見て。桜が咲き誇ってるわ……」
「ええやろ、これがメイグロ名物や。ええ景色にはええもん食べなな」
川沿いには、全国各地のソース味祭りといわんばかりの屋台が並んでいた。
大サイカ名物:トロトロのたこ焼き
広シイマ名物:厚みが勝負の広島お好み焼き
志津岡名物:ボリューム満点の富士のミア焼きそば
「どれにしようかしら…ぜんぶ美味しそうで迷っちゃうわ」
と目を輝かせるマーリンに、メチャセコイが言う。
「おおっと!どれにするかで人生変わりまっせ!」
「え?なんで?」
「そらあんた、たこ焼き選んだら『コロコロ人生』、お好み焼きなら『重厚な道』、焼きそばやったら『迷いの道』や」
「……なるほど、何言ってるのかはさっぱりわからないけど、たこ焼きの丸さがかわいいし、それにするわ」
「よっしゃ、じゃあ2人前で850円やな。マーリンちゃん、425円出してな!」
「……え?」
メチャセコイは小銭入れを開け、異様に光沢のある1円玉をジャラジャラ取り出していた。
「きっちり425円。割り勘はフェアや。きれいに半分こ!」
「ちょ、ちょっと待って。あなた、さっき桜も私が撮ってる間に全部食べたじゃない!」
「撮るのも桜を見るのも、自由や。食べるのも、自由や。割り勘は国民の義務や」
マーリンのこめかみに、静かに青筋が浮かぶ。
そして、彼女は深く息を吸い
「……メチャセコイ、セコすぎて器が小さいわ」
彼女の杖が風を切り、魔力が空間を震わせた。
「聞きなさい。
真実を記す紙片の裁きが、いま汝を測る。
欲深き銭の囁きよ、無限なる帳の迷宮と化せ。
時間を遡り、空間を越え、魂を刻む影とならん。
《顕現せよ四次元魔法・真記録領域!》」
\シュウウウウゥゥン……/
魔法陣が空中に現れ、銀色の光が走る。
次の瞬間、メチャセコイの財布から大量の小銭が飛び出した!
「ちょっ!?お、おれの小銭ィィィィィ!!」
1円玉、5円玉、10円玉……金属音を響かせながら、
すべての小銭が虚空の魔法陣へ吸い込まれていく!
「待ってぇぇぇ!それ、ワイの家宝やねん!!」
メチャセコイは全力で小銭を追いかけ、
魔法陣へと自ら飛び込んでしまった。
\ズボォォン!!!/
最後に聞こえたのは、虚空の向こうで響く――
「……ワイ、まだレシート確認してへんのにィィィィィ!!」
という悲鳴だった。
魔法陣は静かに閉じ、
春の風が残された桜を揺らしていた。
マーリンは再度 、たこ焼き850円を支払い手に入れた。
そして、たこ焼きをひとつ口に入れ、
静かにこう呟いた。
「小銭って、吸い込まれやすいのね……。
人の心も、ね。」
そして、空を見上げ、こう諭すように言った。
「お金は、ありがとうの証であって、
相手を値踏みするためのものじゃありませんわ。
真の割り勘とは、心の重さを半分こすることそう心得なさいな」
マーリンはひとり、春風の中でたこ焼きを頬張る。
「桜は綺麗で……たこ焼きの味はいいのに、気分が悪くなっちゃうのって、ほんともったいないわね」
そして、たこ焼きの竹串をくるりと回しながら、
静かに、そしてまっすぐに言い放った。