第20話 国境超え
俺たちは国境前の宿屋で休息を取りつつ、勇者アルベルトに行商人の着替えをさせた。
「女装の次は行商人ですか。俺は仮装勇者ですか?」
似たような名前のゲームがあるような気がした。
「文句言うな。反逆の戦士バルドルが、この辺りで“勇者討伐”って張り切ってるんだ。お前の顔がバレたら即アウトだぞ」
「確かに……すぐ追いつかれるか」
アルベルトはすぐさまフードを深くかぶって気持ちを切り替えた。「命には代えられない」と言わんばかりに。
「勇者が国境を越えたらすぐに、世の中に知れ渡ってしまうだろ。しばらく商人として活動だ。あまり勇者、勇者っていうなよ」
有名な勇者はすぐに町の噂になる。
その夜、宿屋で俺はマーリンに、謝った。
「さっきのこと……ごめん。ちょっと調子に乗ってた」
だが、マーリンは何も言わずに腕を組んだまま、じっと俺を見つめる。
(無言……こわい。今夜、寝てる間に黒魔術で呪われるんじゃないだろうか)
次の日。
行商人姿のアルベルトと俺たちは、国境の検問に向かった。俺が通行手形を見せると、警備隊の兵士が書類をチェックしながら尋ねてきた。
「何を売りに行くんですか?」
「薬草とかの薬関係ですね。新しい販路の開拓ってところです」
「ふむ、なるほど。書類は……問題なし。この先は強いモンスターが出るから気をつけて」
「はい、もし出たら、すごいスピードで全力で逃げます!」
国境の警備隊の兵士は笑って頷き、俺たちは無事に通過を許された。
「よっしゃあああ! 国境、突破ーっ!」
俺たちは軽くガッツポーズを取りながら、山道を進み始めた。
しかし、しばらくして前方に立ちはだかる巨大な影。
それは——
反逆の戦士、バルドルだった。鎧の隙間から覗く鋼の肉体、巨盾を背負いながら、不敵な笑みを浮かべている。
「いやぁ、村人。久しぶりだなぁ?」
「これはこれは……バルドルさんじゃないですか」
「今日はずいぶんと大勢いるんだなぁ」
「ええ、こいつは新入りの商人でして。名前は……トルベルアです」
それはアルベルトを反対によんだ仮の名前。
「はじめまして、新人のトルベルアです」
アルベルトは声を低くし、フードを深く被って丁寧に頭を下げる。その声はどこか震えていた。
(マジで今ここでバルドルと戦ったら殺される……頼む、気づかないでくれ)
「へぇー新人くんか。何を売りに行くんだ?」
「薬草とか、薬ですね」
「お、薬か! ちょうど俺も薬草が切れてたとこだった。少し売ってくれないか?」
「もちろんですとも……こちら、笑わし草になります。気分が落ち込んだときにおすすめです」
「ほう、面白いな。これは?」
「毒消し草ですね」
「で、これは?」
(おい……いつまで続くんだこのやりとり……バルドル話がクソ長いんだよ!)
「すみません、そろそろ出発しないと……」
俺たちがバルドルの横を通り過ぎようとした——その瞬間。
ドッカーーーーン!!!
雷鳴のような音が響き、バルドルの巨大な盾が勇者アルベルトの身体を吹き飛ばした!
アルベルトは地面を転がりながら山道の斜面を落ちていく!
「アルベルト!!だいじょーぶか!!」
「何をするんですか!」
シスターマリアが声を張り上げる。
だが、バルドルは一歩、前へ。
その目には殺意が宿っていた。
「ゼロの能力者であるシスター……貴様を、ここで殺す」
「は……!?」
の言葉に空気が一変した。
マーリンの目が鋭くなり、俺は無意識に武器に手をかける。
「シスターマリア、後ろに下がれ!」
反逆の戦士バルドルが斧を片手に襲いかかってきた!!