第三話 悪代官バクザンの罪と罠
「さっちゃん、ゼロ部隊の諜報部ナカムラを呼んでくれ。時間がない」
夜の大エイド街角、アルベルトの声は低く鋭かった。
肩に乗る使い魔、ベビーサタンのさっちゃんがひとつ頷くと、小さな口から火花のような呪文を飛ばす。すると、しばらくして黒装束に身を包んだ忍者男が現れた。
「勇者殿、お呼びとあらば。ゼロ部隊・諜報部所属、ナカムラ、参上いたしました」
声も気配も、まるで影のように薄い。彼こそ、ゼロ部隊の最強スパイだった。
「バクザンの屋敷にある“重帳簿”を探してほしい。正義のためだ」
「承知。証拠は闇より取り出してまいりましょう」
ナカムラは夜の帳に紛れるように影の中で姿を消した。
数日後に、分厚い帳簿をアルベルトの手に渡した。
「……これは!」
アルベルトが頁をめくると、そこにはバクザンが“横領した公金の行方”が事細かに記されていた。村の財産を没収し、私腹を肥やしていた事実、それこそが、お雪の父の無実を証明する動かぬ証拠だった。
「これで、すべての嘘を終わらせる……!」
アルベルトとお雪は、正面からバクザンの屋敷へと乗り込んだ。
「……出てこいバクザン!俺たちは、お前の罪を暴きに来た!」
「ふん、勇者がこんなところで何を……」
広間の奥から現れたのは、黒い正装を着たバクザン。だが次の瞬間、四方の扉が音を立てて閉まる。
「……お前たちが来るのは分かっていたよ」
バクザンが指を鳴らすと、無数の武士たちが壁の影から現れ、抜刀する。
「やれやれ、死人に口なしとはこのことか」
「くっ、罠だったのか!」
アルベルトが剣を構える。だが数が違いすぎる。
「私の罪だと? そんな証拠は……燃えて消えたんじゃないかな」
バクザンの視線の先では、お雪が持っていた帳簿に火が放たれていた。
背後から忍び寄っていた刺客が、火矢を打ち込んだのだ。
「やめろおおおおおおおおおおおお!!!」
お雪が叫ぶが、すでに炎は回り、文字を飲み込んでゆく。
絶望と、怒りと、焦燥
すべてが交錯したその瞬間、アルベルトが言った。
「……確かに、帳簿は焼かれた。でも....もう一冊ある」
バクザンの顔が引きつる。
「なに……?」
「ナカムラ、お前が写しを用意してくれたんだよな?」
影のように現れたナカムラが、涼しい顔で新たな帳簿を差し出した。
「ゼロ部隊、伊達に情報屋はやっておりません。すべてコピー済みです」
バクザンの顔が青ざめる。
「さあ、正義の刃を受けろ!」
お雪が流星剣を振るい、武士たちをなぎ倒す。
「これが……父の汚名を晴らす刃よ!!」
夜の広間に、火の粉と怒号が舞った。