第二話 凍てついた心、流星の記憶
雪国を出て、勇者アルベルトと女剣士お雪は、ナカムラの故郷の和の国の大陸随一の都市 大エイドへとたどり着いた。
目的はただひとつ。
お雪の両親を死に追いやり、村を支配した悪代官バクザンを見つけ出し、正義鉄槌を貫くこと。
だが、大都市の空気は重かった。豪奢な建物、忙しなく行き交う民の影。そのどれもが、真実を隠す仮面のようだった。
「ここで……あの男はぬくぬくと生きてるのね」
お雪の瞳は、炎のように燃えていた。
「必ず見つけ出して、断罪するわ」
そう言った瞬間――!
ピシュッ!!
空気を裂いて飛来した矢が、アルベルトのマントを裂く。
「くっ、またかよ!」
「刺客!さっちゃん、右上っ!」
アルベルトの肩に乗っていたベビーサタン・さっちゃんが空中に炎を吐き出す。お雪は剣を抜き、夜の街を駆け抜けるように、流星のごとき連撃を放つ。
「下らない手先が……バクザンを隠すには足りない!」
激しい戦闘の末、刺客の一人を捕らえたアルベルトが、口を割らせた。
「……裏金庫に、証拠がある。バクザン様の指示だった」
アルベルトとお雪は、街の奥深く――地下書庫へと向かった。そこに眠る“裏帳簿”には、奴の犯罪の数々が赤裸々に記されていた。
だが。
「よく来たな、女剣士。……お前が、あの“裏切り者”の娘か」
薄暗い地下の奥に、黒いコートをまとった壮年の男が現れた。
それが悪代官のバクザンだった。
「……父を、裏切り者だと?」
お雪の声が震える。
「そうさ。奴は国家の資金を横領していた。私はそれを暴き、告発しただけだ。……あの日、お前の村を調査したのも、そのためだ」
「うそだっ!」
お雪が剣を構える。だが、その目は戸惑っていた。
「父は……正しい人だった! 村の皆も知ってる!あなたが金を奪い、母を……!」
バクザンは冷たく笑った。
「証拠なら、そこにあるぞ。お前の父の“本当の帳簿”だ。……見てみるか?」
アルベルトがそれを手に取り、ページをめくる
そこには確かに、“使途不明金”の記録が並んでいた。
「……これは……」
「信じられない……」
お雪の手から、剣がカランと落ちた。
怒りで支えていた心が、急速に崩れ始める。
「父が……悪人だったの?私の正義は……全部、間違ってたの?」
アルベルトが、お雪の肩に手を置いた。
「まだ決めつけるのは早い。証拠が捏造されてる可能性もある。落ち着いて調べよう。……お雪、ひとりで背負うなよ」
お雪は、涙をこらえるように下を向いた。
「……ありがとう。アルベルト。もう少しだけ、あなたを信じてみる」
お雪は涙しながら、勇者アルベルトと立ち去った真実を調べる為に