第19話 マジックキャンセル
魔人ゴーレムがマーリンの黒魔術によって亜空間へと呑まれていった。
その瞬間、空気が変わった。
俺、勇者アルベルト、そしてシスターマリアの体にじんわりとした温もりが広がる。
レベルが2も上がる。
勇者アルベルトの体にじんわりとした温もりが広がる。
《勇者アルベルトのレベルが上がった!》
《体力が15上がった!》
《力が12上がった!》
《防御が15上がった!》
《素早さが12上がった!》
《賢さが8上がった!》
《運が5上がった!》
《新しい魔法「ファイヤード」を覚えた!》
「おっおそらく名前から炎系の魔法だな。燃えるぜ!」
勇者アルベルトが燃え滾る。
シスターマリアの体にじんわりとした温もりが広がる。
《シスターマリアのレベルが上がった!》
《体力が8上がった!》
《魔力が6上がった!》
《素早さが4上がった!》
《賢さが8上がった!》
《新しい魔法「Dペート」を覚えた!》
俺の体にじんわりとした温もりが広がる。
《リスクのレベルが上がった!》
《運が20上がった!》
《賢さが15上がった!》
《新しいスキル「かます」を覚えた!》
「リスクさん、運が20も上がりましたよ。新しいスキル『かます』は、相手を騙したりビビらせたりする、商人向けのトリック系スキルみたいです」
シスターマリアの説明に、俺はガッツポーズを取った。
「おお、やったぜ!ラッキーボーイの俺は、次の港町で宝くじ買っちゃおうかな。かますぜ!」
でも戦闘には全く役にたちませーーん。
だが、その盛り上がりとは裏腹に、パーティーに戻ってきた黒魔術師マーリンは腕を組んで無言だった。
彼女の体に、あの“じんわりした温もり”は訪れていなかった。
「……レベル、上がってない?」
マーリンは目を細め、こちらを見た。何かを計算するような冷たい目だった。
「なんでマーリンだけ……?」
気になって仕方がない俺は、思い切ってシスターマリアに頼んだ。
「なあシスターマリア、ちょっとだけでいいから、マーリンのステータス見てみてくれない? なんかヤバそうな気がするんだ」
シスターマリアは少し戸惑ったが、神聖な杖を握りしめ、神に祈るように呟いた。
「聖なる光がマーリンを記すステータス!」
杖の先から聖なる光が放たれ、マーリンの体を包む。
だが──
「邪悪なる光が魔法を消し去るMキャンセル」
マーリンが低く、冷たい声で詠唱すると同時に、光が弾け飛び、シスターマリアの魔法がかき消された。
「っ! なにするんだマーリン!」
俺が怒鳴ると、マーリンはゆっくりと振り返り、嫌悪を込めた目で俺を見た。
「……最低ね。勝手に女性のステータスを覗こうなんて、どこまで下劣なのよ。気持ち悪いわ、リスク」
ズシリとくる一言だった。まるで心臓を拳で殴られたような衝撃だ。
「ち、違う!別にそういう意味じゃ──!」
「言い訳無用よ。除き魔変態野郎!」
「ちょ、ちょっと待てよ! 俺は仲間として心配して──」
「勝手に心配しないでくれる? あんたの“仲間”って、ただの都合のいい道具のこと?」
マーリンの言葉に、場の空気が凍りついた。
「リスク、ちょっと今のは軽率だったぞ」
アルベルトが厳しい声で俺をたしなめた。
「パーティーなんだから、お互い信頼し合わないといけない。いくら気になっても、無断でステータスを調べようとするのはやりすぎだ」
「……すまん」
肩を落とす俺の心には、針のような後悔が突き刺さっていた。
だが同時に、マーリンのレベルが上がらなかったという事実が頭から離れない。
(あいつ……やっぱり、最初から高レベルなんじゃ……。下手したら、レベル50以上……?)
そのとき、シスターマリアが空気を変えるように声を上げた。
「リスクさん、さっきの私が覚えた新魔法『Dペート』の効果がわかりました!」
「おお! どんな効果なんだ?」
「敵と味方の“素早さ”を10秒間だけ下げる効果のようです!」
「えっ……味方も? でもそれって使い方によっては、敵の行動を封じられるってことか……」
「はい! 例えば敵が高速で攻撃してくるような場面では、とても有効だと思います!」
「じゃあ、今度の戦闘で俺にもかけてみてくれ! どんな感じになるか体験したい!」
「わかりました!」
俺はようやくシスターマリアの魔法に希望を見出し、少しだけ未来が開けた気がした。俺の考えが正しければ『Dペート』で、俺のゼロの能力者のスキル能力が解放されるはずだ。
だが、その背中越し
黒魔術師マーリンの視線は、冷たく、深い深海の漆黒の闇のようだった。




