第十二話 いいところどり~魔獣先輩
魔竜は、胸を貫かれ、咆哮を噛み殺しながら、地に膝をついた。
だが、まだ生きていた。
全身から立ち上る黒炎。金の瞳はなおも燃え盛り、怒りと苦痛にゆらめいている。
「──グアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!!!!」
天地を揺るがす、黒き咆哮。
魔竜はなおも屹立し、全身の鱗は金属よりも硬く、どんな攻撃も通さない。
エリックの手斧は刃こぼれし、カンナ姫の《グラン=ツァンハンマー》も、打ち込んだ瞬間にはじかれる。
「……くそっ、通らねぇッ!!」
「魔力の通り道が……閉じてる……!このままじゃ……!」
その時だった。
「カンナッ!俺の斧に、あんたの魔導の力を――ぶち込んでくれ!」
「……わかった!!重ねるよ、エリック!」
ふたりは一度息を合わせ、全力で飛び上がる。
手斧とハンマーが――交差する!
「合体技ッ!!」
「釘打ち重圧撃!!!」
カンナの魔導が、エリックの斧に重力の魔力を加える!
その質量は十倍、百倍、千倍と膨れ上がり――空間が悲鳴を上げた!
ズガァァァァァァン!!!
魔竜の硬き胸鱗が、砕けた――!!!
「今だあああああああっ!!」
叫ぶその時
空気が、震えた。
……詠唱だった。
黒いマントが風に舞い、異様な重圧が世界を包む。
「アル隊長……!? なにしてんですか今ッ!?」
「目覚めよ、古き獣よ……
闇よ、我が肉体を喰らい尽くせ。」
「王の血よ、魔獣の骨よ――
真の姿へと具現せよ……
《魔獣 ライカントロス》ッ!!」
ズギャァァァァン!!!
漆黒の稲妻が隊長の身体を貫き、
その肉体は変貌する――!!
全長三メートルを超す黒き魔獣。
牙は雷鳴、爪は鋼鉄。
その姿は、まさしく“王殺し”の魔獣だった。
「……マジか……これ、マジでやっちゃうヤツじゃないですか魔獣先輩……!」
さっちゃんのツッコミも届かない!
黒獣が、ひと跳びで宙を裂く!
「《ベヒモス・コード 第弐式──ティラノサウルス顕現》!!!」
ティラノサウルスとなったアル様の顎が、煌く稲妻をまとい――
魔竜の露出した首筋に食らいついた!!
ガガガガガガガガガァァァァン!!!!
刹那、魔竜の首が――へし折られた!!
ゴオオォォォォオオォォ………
咆哮は、残響だけを残して……消えた。
魔竜の巨体が、地に崩れ落ちる。
世界を焼き尽くさんとした“絶望”が、静かにその息を引き取った。
「……ちょっ、今の技名なに!? ティラノサウルスって!? ていうか恐竜は魔獣!? ていうか先輩、自己紹介なしに変身してる場合じゃないですからね!? 魔獣系主人公気取り!? ナチュラルにラスボスやっつけてますけど!?」
さっちゃんのツッコミが止まらないが、誰も止めない。
みんな疲れていたし、なんだか勝った気がしていた。
エリックとカンナは、互いに目を合わせ、頷いた。
「……世界平和を、守れたな。」
「……うん。あなたと、なら。」
そして空には、静かに光が差し始めていた。
夜明けだ。
飛行艇の戦士たちは魔竜を倒した。




